前回の投稿で述べたように、被相続人の生前に、その推定相続人が相続放棄をすることはできません。ところが、同じ「放棄」であっても、遺留分の放棄については被相続人の生前におこなうことが可能です。

生前に遺留分放棄をするのは次のようなケースが考えられます。

まず、子の1人には相応の生前贈与を行い、他の子には遺言書により全ての遺産を相続させることにしたとします。生前贈与を受けた子供はそれを納得していたはずが、いざ相続が開始してみると遺留分を主張するということも考えられます。

もしも、相続人が2人の子供のみであったとすれば、生前贈与を受けた子供についても、遺産全体の4分の1を遺留分として受け取る権利があるのです。たとえ遺言書により遺産相続する者を指定したとしても、遺留分を侵害している場合には、その減殺請求をすることができます。

そのようなことを防ぐには、家庭裁判所へ遺留分放棄の許可審判申立をすることができます。申し立てが出来るのは、遺留分権を有する相続人で、相続の開始するまでならいつでも行うことができます。

遺留分放棄の許可審判申立をすると、遺留分の放棄が申立人の真意に基づくものであるかどうか、均分相続の理念に反するような他からの強制に基づいたものではないか、相当な生前贈与があったかどうかなど、慎重に調査が行われた上で許否が決定されることになります。

なお、遺留分の放棄は、相続放棄とは違います。放棄するのはあくまでも「遺留分」ですから、相続人でなくなるわけではありません。

もし、遺留分放棄者へ遺産を承継させるような内容の遺言書があれば、その人が遺産相続することもあり得ます。遺言書を作り直した場合は、後に作ったものが有効となりますから、このようなことが絶対にないとはいえません。

上記のような特殊なケースは別として、遺留分放棄は、遺言書の作成とセットでなければ意味がないのは当然です。遺言により遺産を相続させた者に対して、遺留分の主張をすることを防ぐためにするのが、遺留分放棄だからです。