住宅ローン特則とは、民事再生法に規定された住宅資金貸付債権に関する特則のことを指します。

法律上の用語としては「住宅資金貸付債権に関する特則」というべきですが、住宅資金貸付債権(住宅ローン)についての特則であることから、以降は「住宅ローン特則」と表記します。

1.住宅ローン特則とは

2.住宅ローン特則の特徴・内容

2-1.住宅資金特別条項の種類

2-2.保証会社による代位弁済後の利用

2-3.再生計画案の決議における住宅ローン債権者等の議決権

2-4.抵当権、保証人、連帯債務への効力

1.住宅ローン特則とは

住宅ローン特則とは、住宅ローンを抱えた債務者が、住宅を維持しながら債務整理を可能とするための、民事再生法の特別です。

住宅ローン特則の仕組みとしては、民事再生の再生計画の中に住宅資金特別条項を定めることにより、住宅ローンについてはその他の債権と別の取り扱いをしようとするものです。

2.住宅ローン特則の特徴・内容

2-1.住宅資金特別条項の種類

民事再生法が定めている住宅資金特別条項は次の4種類です。

  1. 期限の利益回復型(民事再生法199条1項)
  2. 弁済期延長型(リスケジュール型)(民事再生法199条2項)
  3. 元本一部猶予型(民事再生法199条3項)
  4. 同意型(合意型)(民事再生法199条4項)

4種類の住宅資金特別条項のうち、4の合意型(同意型)を除いては、住宅ローン債務(元金、および利息損害金)の減免は一切認められていません。つまり、住宅ローン債権者の同意がなければ債務の減額や免除は一切受けられない仕組みとなっています。

また、住宅資金特別条項のうち1から3を自由に選べるわけではありません。まずは、1の期限の利益回復型が原則で、1では履行可能性が認められない(再生計画認可の見込みがない)ときは、2の弁済期延長型(リスケジュール型)、それでも無理ならば3元本一部猶予型を選択することになります。

4の同意型(合意型)については、住宅ローン債権者の同意があれば1~3型以外の内容の住宅資金特別条項を定めることができます。そして、債権者が同意すれば、住宅ローンの元金、および利息損害金の免除を受けた条項を定めることも可能です。

ただし、実際に利用されているのは、期限の利益回復型(民事再生法199条1項)が多いと思われます。とくに、住宅ローン以外の債務の支払いが困難になっていても、住宅ローンについてはほとんど遅れることなく支払いを継続されているケースが多いです。

この場合、住宅資金特別条項により新たな支払方法を定めるのでなく、住宅ローンについては当初の約定どおり支払うものとしています。住宅資金特別条項の類型としては1の期限の利益回復型ですが、当初の約定どおりの返済をするのを「そのまま型」などといっています。

また、住宅資金債権についての弁済許可(民事再生法197条3項)を受けることにより、再生手続開始後も住宅ローンの弁済を継続することができるので、住宅ローンについては滞納することなく支払いを続けられます。

2-2.保証会社による代位弁済後の利用

住宅ローンを延滞しており、保証会社が代位弁済をしてしまった後でも、保証会社による保証債務履行のときから6ヶ月以内であれば住宅ローン特則の利用が可能です。保証会社による代位弁済後に住宅資金特別条項を定めようとするのを、保証会社による代位弁済がおこなわれる前の状態に戻すという意味で、一般に「巻き戻し」といっています。

民事再生法198条2項 保証会社が住宅資金貸付債権に係る保証債務を履行した場合において、当該保証債務の全部を履行した日から6月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、第204条第1項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなる者の権利について、住宅資金特別条項を定めることができる。

2-3.再生計画案の決議における住宅ローン債権者等の議決権

住宅資金特別条項を定めた再生計画案の決議において、住宅ローン債権者(住宅資金特別条項によって権利の変更を受けることとされている者)および保証会社は、住宅資金貸付債権については議決権を有しません(民事再生法201条1項)。

ただし、住宅資金特別条項を定めた再生計画案が提出されたときは、裁判所は、住宅資金特別条項によって権利の変更を受けることとされている者の意見を聴かなければならないとされています(民事再生法201条2項)。

2-4.抵当権、保証人、連帯債務への効力

住宅ローン特則付きの再生計画の場合の住宅ローンについては、抵当権、保証人および他の連帯債務者に対しても再生計画の効果が及びます。よって、再生計画に従った弁済をしている限りは、抵当権を実行されたり、保証人が別途支払いをするよう求められることはありません(民事再生法203条1項)。

これに対して、上記の住宅ローン以外については、再生計画の効力は、担保権、保証人および他の連帯債務者に対しては及びません(民事再生法177条2項)。そのため、保証人がいる場合、保証人は別途全額の支払いを求められることとなります。