債務整理について専門家に相談する場合、弁護士と司法書士のいずれかが選択肢となります。

まず、弁護士ならば業務の範囲に制限はありませんから、依頼者(債務者)の代理人としてすべての債務整理業務をおこなうことが出来ます。

司法書士の場合には、法律の制限により取り扱えない業務もありますが、制限の範囲内であれば弁護士と同じく債務整理業務をおこなうことが出来ます。

取り扱える業務に制限はあるものの、司法書士事務所は弁護士に比べて敷居が低く、報酬も弁護士と比べて低額になっていることも多いため、司法書士に債務整理を依頼する人も多いのです。

この記事では、債務整理を弁護士に依頼するのと、司法書士に依頼するのでは何が違うのかについて解説します。

債務整理での弁護士と司法書士の違い(目次)
1.任意整理をする場合
2.自己破産・個人民事再生をする場合
3.司法書士が多重債務問題を取り扱いはじめた経緯

1.任意整理をする場合

任意整理では、現在の債務元本の全額を分割によって支払っていくのが通常です。

支払総額や月々の分割金額は、債権者との話し合いにより決定します。裁判所などが関与すること無く、債権者と債務者代理人(弁護士、または認定司法書士)の任意の話し合いによる債務整理であるため、任意整理といわれます。

任意整理については、司法書士であっても、法務大臣の認定を受けた「認定司法書士」でなければおこなうことが出来ません。任意整理は、依頼者(債務者)の代理人として債権者との直接交渉をするので、法定代理人となる権限が必要だからです。

さらに、認定司法書士であっても代理権の範囲は、1社当たりの元金が140万円までの場合に限定されます。銀行カードローンなどでは元金が140万円を超えている場合もあるので、このときの任意整理は弁護士でなければ取り扱うことが出来ません。

結論として、任意整理をおこなう際、1社当たりの元金が140万円以下の場合であれば、弁護士でも認定司法書士でもどちらを選んでも問題ないということになります。

2.自己破産・個人民事再生をする場合

自己破産、個人民事再生は、裁判所でおこなう手続きです。弁護士は、債務者(依頼者)の代理人となり、裁判所へ自己破産や民事再生手続きの申立てをすることができます。

これに対し、司法書士がおこなえるのは、自己破産、個人民事再生の手続きをする際の申立書類の作成です。ただし、申立書類を作成するだけでなく裁判所への提出もすることが出来ます。また、申立後の裁判所とのやり取りの多くも司法書士がおこないますから、ほとんどの手続きを司法書士にまかせられるとのイメージを持っていただいて差し支えないでしょう。

司法書士が裁判所提出書類を作成することについては元金が140万円以下などの制限はありませんから、自己破産、個人民事再生の申立書作成はすべて司法書士がおこなうことが可能です(認定司法書士で無くとも裁判所提出書類の作成はおこなえます)。

それでも、弁護士が代理人として申立てをするのと、司法書士が書類作成をして申立てをするのでは法律上の位置付けが異なります。弁護士による場合は代理人による申立てであるのに対し、司法書士が書類作成をしたときには本人による申立てとなるからです。そのため、それぞれの場合で裁判所の取り扱いが異なるところもあります。

また、この取り扱いは申立てをする裁判所によっても異なる場合があるので、とくに司法書士に依頼するときには、その裁判所での手続きに精通した事務所を選択するのがよいでしょう。裁判所の取り扱いを把握している司法書士であれば、司法書士による書類作成でも問題の無いケースと、弁護士に依頼した方がよいケースとを判断することも出来るはずです。

自己破産、個人民事再生については、弁護士に依頼するのがベターであることは間違いありません。しかし、手続きに精通している司法書士であれば、問題なく手続きをおこなうことが可能です。そのような司法書士が見つかるのであれば、費用面も考慮した上で、司法書士に依頼するという選択肢も十分にあり得ます。

費用だけで無く、弁護士や司法書士個人の経験にもよる違いや、依頼者との相性もありますから、実際に相談してみて信頼できると思えた専門家に相談するのがよいでしょう。

3.司法書士が多重債務問題を取り扱いはじめた経緯

債務整理をする場合、弁護士ならば業務の範囲に制限はありませんから、弁護士が依頼者(債務者)の代理人としてすべての債務整理業務をおこなうことが出来ます。

それならば、債務整理はすべて弁護士に依頼すればそれでよいようにも思えますが、同じ法律専門家である司法書士も債務整理を取り扱っています。なぜそのようなことになっているのか、ここからは私見を交えて解説します。

この記事を書いているのは、2000年代の初め頃に開業した司法書士です。私が司法書士として業務を開始したのは、認定司法書士の制度が出来る前でした。そのため、当初は自己破産や特定調停の申立書の作成などにより、多重債務者が債務整理をするための支援をしていました。

この頃は、債務整理を業務として取り扱う弁護士は少数であり、また、紹介が無ければ依頼を受け付けてくれない弁護士が多かった時代です。知り合いのつてなどにより何とか弁護士に相談に乗ってもらったとしても、現在の相場よりもかなり高額の費用を支払わなければ依頼を受けて貰えないこともあったはずです。

多くの弁護士がウェブサイトを開設して、不特定多数の人からの相談を積極的に受け付けている現在とは全く状況が違っていたのです。そんな時代にあって、一部の司法書士が債務整理業務に取り組むことにより、多重債務者の支援をおこなっていたという現実があったわけです。

つまり、少なくとも当時の状況下においては、弁護士の仕事を横取りしようとして、司法書士が債務整理に手を出したということでは全くありません。ほとんどの弁護士が見向きもしなかった債務整理の手続きを、法律専門家の使命として司法書士も手がけていたということです。

今では弁護士の数が激増したことにより債務整理を取り扱う弁護士も多くなっており、また、ウェブサイトなどを通じて弁護士に相談するのも容易になっています。したがって、将来的には弁護士のみによって債務整理業務に関する全ての需要を満たせるようになるのかもしれません。

しかしながら、司法書士が債務整理業務をおこなうようになったのは上記のような経緯によるのであり、現時点においては、弁護士に劣らない豊富な経験と実績を持つ司法書士も多数存在するわけです。