この記事では個人版民事再生の効果を分かりやすくお伝えするため、個人版民事再生を利用をすべき典型的なケースについて解説します。

住宅ローンの取り扱いやどれだけ債務が減額されるかなどについては、ここでの解説と異なる場合もありますので、実際に手続きの利用を検討するときは専門家(弁護士、司法書士)にご相談ください。

債務整理の種類と方法2(個人版民事再生)
1.住宅ローンがある場合
2.自己破産の免責不許可事由(ギャンブル、浪費など)がある場合

1.住宅ローンがある場合

個人版民事再生の手続きを利用するメリットが最も大きいのは、「住宅ローンに加えてその他の借金も多い場合」です。

住宅ローン以外の借金の支払いに追われて、住宅ローンの支払いも難しくなっているような場合でも、個人版民事再生を利用すれば「無理なく住宅ローンの支払いが出来るようになる」ことが期待できます。

個人が利用できる裁判所での債務整理手続きとしては、個人版民事再生の他に自己破産があります。自己破産によれば原則として全ての借金の支払い義務が免除されますが、自宅不動産も手放さなければなりません。

これに対して、個人版民事再生ならば自宅不動産を守りつつ、債務整理をすることが可能なのです。具体的には、住宅ローンについては当初の契約通りの全額を支払う必要があるものの、それ以外の借金については最大で8割の減額を受けることできます。

たとえば、住宅ローンの他に借金が500万円あったとすると、この500万円が100万円に減額される可能性があるわけです。

500万円のうちの100万円を3年間で支払うとすれば月々の支払は28000円弱になります。裁判所の認可決定を受けた再生計画に従って、現実に3年間の支払いをすれば残りの400万円の支払いが免除されるのです。

この間も住宅ローンの支払いは従来どおりおこなっていきますが、再生計画による支払いをする3年間が無事に終われば、残された借金は住宅ローンのみになるのです。

つまり、個人版民事再生によれば、「自宅を手放したくないから住宅ローンは支払っていきたい。でも、それ以外の借金は支払が苦しいから減額して欲しい」という、普通に聞いたらあまりに虫が良い願いが叶えられるということです。

個人版民事再生を利用するには「継続した収入が得られる見込みがあって、再生計画による支払いが可能である」ことが最低限度必要であり、他にも様々な要件がありますが、安定した収入のあるサラリーマンなどであれば問題無い場合が多いです。

自分の場合はどうなのか分からないときは、お早めに専門家(司法書士、弁護士)に相談してみることをお勧めします。

ただし、債務整理業務を取り扱っている専門家の中でも、個人版民事再生を積極的に選択している人は多くないかも知れません。相談予約をする際に、民事再生の利用を希望することをまず伝えるのがよいでしょう。

2.自己破産の免責不許可事由がある場合

個人版民事再生によれば、現在の借金が最大で8割減額される可能性があります。

借金が500万円ならば100万円、1000万円なら200万円です。200万円を支払えば、残りの800万円の支払いが免除されるというわけです。

ただし、自己破産によれば1000万円の全てが免除されるのですから、特段の理由が無ければ民事再生よりも自己破産を選択した方がベストだと判断されることも多いでしょう。

たとえば、住宅ローン支払い中の自宅を維持したい場合には、個人版民事再生を選択する意味があります。しかし、不動産を所有していない場合に、あえて民事再生を選択する意味はあるのでしょうか。

どちらも裁判所による債務整理手続きですから、申立てをすることによるデメリットは大差ありません。自己破産による資格制限がある一部の職業に就いている人を除けば、民事再生でも自己破産でもどちらを選んでも問題無い場合が多いはずです。

それでも、民事再生を選択する場合として、「自己破産では免責許可が得られない恐れがあるとき」が第一に挙げられます。

破産法では免責不許可事由についての規定があり、たとえば、ギャンブルや浪費が借金の主な原因である場合には免責が許可されないことになります。免責が許可されないというのは、つまり、借金の支払い義務が免除されないということです。

実際には、ギャンブルや浪費があっても程度によりますし、最終的には免責許可が得られることもあります。しかし、自己破産の申立をする前に免責が許可されるかを正確に判断することは不可能ですから不安があります。

このような場合に、民事再生を選択するという選択肢があります。民事再生法には、自己破産の場合の免責不許可事由に当たるような規定がありません。したがって、借入れの事情は問われないのが原則です。

もちろん、浪費やギャンブルの程度によっては、裁判所や個人再生委員から厳しい指摘を受けることもあるでしょう。けれども、そのことによって再生計画案が認可されないということは無いはずです。

また、借入れの事情によっては債権者の反対により再生計画案が否決されるとの心配もあります。しかし、クレジットカード現金化のような行為を繰り返していた場合は別としても、通常のキャッシングやローンであれば債権者がお金の使い道を問題視することはありません。

よって、個人版民事再生ならば借金の理由を問わず利用できると考えて差し支えないでしょう。

現実にも、自己破産だと不安なため民事再生の申立をおこなうことは多くあります。そして、私個人の印象としては、免責不許可事由に当たるような行為があったとしても、裁判所も個人再生員もあまり追求してきません。

裁判所も個人再生員も、民事再生の手続きでの関心事は「再生計画による返済が可能であるか」に尽きます。したがって、家計収支の状況や今後の収入の見込みなどが問題なければ、その他のことをあまり問われないわけです。