法定相続人になる順序は、被相続人の子が第1順位で、第2順位が直系尊属(父母、祖父母)、第3位が兄弟姉妹となっています。

被相続人の子の全員が相続放棄し、存命の直系尊属(父母、祖父母)がいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。

これは、法律(民法)の規定によるものであり、法定相続人になる兄弟姉妹が、被相続人の子たちが相続放棄したかを知っているかどうかは関係ありません

つまり、被相続人には子がいるから自分は相続人にならないと思っていたのが、「子たちが相続放棄したことで、いつの間にか兄弟姉妹である自分が法定相続人になっていた」ということも起こりえるわけです。

それでは、子の全員が相続放棄した場合に、裁判所から後順位の相続人へ通知が行くような制度はないのでしょうか。

子が相続放棄すると兄弟姉妹に通知が行くのか(目次)
1.相続放棄したことを通知する制度は存在しない
2.兄弟姉妹が相続放棄できる期間
3.先順位者が相続放棄したのをどうやって知るか

1.相続放棄したことを通知する制度は存在しない

最初に結論を言えば、被相続人の子の全員が相続放棄したとこで兄弟姉妹が相続人となった場合でも、その事実を本人たちに通知するような制度は存在しません。

そもそも、子たちが相続放棄する際に家庭裁判所へ提出する戸籍類は、被相続人の死亡の旨の記載のある戸籍(除籍)と、放棄する相続人自身の戸籍だけです。したがって、裁判所としては子の全員が相続放棄したのかどうかも把握できませんし、さらに直系尊属、兄弟姉妹がいるかどうかも分からないわけです。

家庭裁判所としては、後順位の相続人から相続放棄の申立てがあった時になって初めて、その申述人が相続人であるかを提出された戸籍等で確認するわけです。

よって、相続放棄した事実を通知することができる人がいるとすれば、それは相続放棄をした子たち自身です。子である自分たちが相続放棄した場合、伯父(叔父)や伯母(叔母)に当たる人々にその事実を知らせるのが普通でしょうが、親戚付き合いが途絶えているような場合では知らせていないケースも少なくないと思われます。

その場合、自分たちが相続人になっているにもかかわらず、その事実を知らずにいることになります。

2.兄弟姉妹が相続放棄できる期間

被相続人の兄弟姉妹が自分の知らぬ間に相続人になっていたとして、それから3か月やもっと長い期間が経過してしまえば、その後に相続放棄することはできなくなってしまうのでしょうか。

この点について、前の順位の相続人がいるときには「先順位者の相続放棄を知った日」から3ヶ月以内であれば相続放棄ができるものとされています。

よって、先順位者である子たちが相続放棄したものの、その事実を知らせてくれていなかった場合には、先順位者の相続放棄を知った日から3ヶ月以内に相続放棄の手続きをすれば良いわけです。

それで全く問題ないわけですから、交流の途絶えている親戚のオジさんやオバさんに無理に連絡を取らなくても大丈夫だということになります。反対に、兄弟姉妹の側からしても、子たちが相続放棄したのを知らせてくれなかったとしても、それを責めたりする必要は無いということです。

3.先順位者が相続放棄したのをどうやって知るか

先順位者が相続放棄したがその事実を知らせてくれなかったという場合、兄弟姉妹が相続人になっていることを知るのは、債権者からの通知などによることが多いです。

被相続人に借金があったような場合では、銀行や貸金業者、または保証会社などから相続人宛に通知が行くことで、自分たちが相続人になっている事実を知るわけです。この場合には、通知を見たときから3ヶ月以内であれば相続放棄が可能なわけですから慌てる必要はありません。

もちろん、先順位者である子たちが相続放棄したときから3ヶ月以上が経っていたとしても全く問題はありません。けれども、債権者からの通知を見てから3ヶ月間が経過してしまったら、それから相続放棄をするのは困難ですから要注意です

通知を見ても何だか良く分からなかったなどという理由で、3ヶ月を経過してしまっているケースもあります。わからないからといって放置するのではなく、すぐに専門家(弁護士、司法書士)に相談すべきです。

3.相続放棄申述の有無についての照会

先順位者が相続放棄したことにより、自分たちが知らぬ間に相続人になっていたとしても、債権者からの通知などが一切届かないのであれば何も問題は生じません。もしも、後になって通知書が来たとすれば、そのときになって相続放棄するかどうかを判断すれば良いわけです。

しかし、それでは不安だから子たちが相続放棄しているかどうかを確認したいと思う場合もあるでしょう。たとえば、被相続人およびその家族とは交流を絶っているが、債務を抱えている可能性が高いと思われるようなときです。

被相続人が債務超過であるかどうかにかかわらず関わり合いになりたくないから相続放棄がしたい、しかしながら、子たちが相続放棄しているかどうかわからないということもあるでしょう。子たちが相続放棄している可能性が高いと考えるならば、とりあえず相続放棄の申立てをしてみるという方法もあるでしょう。

この場合、先順位者の全員が放棄していれば、兄弟姉妹による相続放棄の申述が受け付けてもらえますが、そうでなければ受付されません。相続放棄ができるのは、相続人に限られるからです。

そこで、自分たちが相続人になっているかを確認する方法として、家庭裁判所に対して「相続放棄・限定承認の申述の有無」をしてみる方法があります。照会対象者が相続放棄をしていればその旨が通知されますから、それから相続放棄の手続きをすれば良いということです。

なお、私が取り扱ったケースで、先順位者全員が放棄しているのを前提に申立したところ、子の1人がまだ手続きしていなかったことがあります。そのときは、裁判所で受付を保留にしておいてくれて、子の全員が放棄した後に手続きを進めてくれました。

このときは、子のうちの1人の手続きが遅れていただけなので上記のとおりで問題なかったわけですが、自分たちが相続人になるのかわからないけれど、とりあえず申立してみるという方法はお勧めできません。

やはり、そのような場合は、事前に相続放棄申述の有無についての照会をしてみるべきでしょう。