個人版民事再生のうち、給与所得者等再生では、「計画弁済総額を可処分所得の2年分以上にしなければならない」との要件(可処分所得要件)があります。この可処分所得額は、再生債務者の手取収入の額から、最低生活費をマイナスすることにより算出します。
給与所得者等再生での可処分所得額の計算
1.最低生活費の計算
2.手取り収入額の計算
3.可処分所得額の計算
4.居住地の区分による最低生活費の違い
1.最低生活費の計算
再生債務者の1年分の最低生活費は、個人別生活費、世帯別生活費、冬季特別生活費、住居費および勤労必要経費を合計した額です。
それぞれの金額は、住んでいる場所、年齢、家族構成等によって変わってきます。個々のケースに応じた金額等は、民事再生法第二百四十一条第三項の額を定める政令で定められています。
この政令は特に難しいことが書いてあるわけでなく、一つ一つの条文を見ていけばご自身の場合の最低生活費を算出することも出来るはずですが、目安としていくつかの家族構成についての最低生活費を以下に記します。
たとえば、東京23区に住んでいる、夫(42歳)、妻(39歳)、子(15歳)、子(13歳)の4人家族の場合の最低生活費は4,296,000円となります(収入の額、住宅ローンの有無や状況などにより金額が変わることもあります)。
・居住地域の区分:第1区
・家族構成:夫(42歳)、妻(39歳)、子(15歳)、子(13歳)
・最低生活費:4,296,000円
家族 | 個人別生活費 | 世帯別生活費 | 冬期特別生活費 | 住居費 | 勤労必要経費 |
本人 | 478,000 | 703,000 | 27,000 | 835,000 | 555,000 |
妻 | 499,000 | 0 | 0 | 0 | 0 |
子 | 601,000 | 0 | 0 | 0 | 0 |
子 | 598,000 | 0 | 0 | 0 | 0 |
- 住居費は、住宅ローン支払中の住居があるときには835,000円(居住地域の区分が第1区の場合)ですが、住居費がかかっていないときは0円とされたり、また、現実にかかっている住居費(家賃、住宅ローンの支払額)を住居費とされることがあります。
- 勤労必要経費が555,000円なのは収入額が250万円以上の場合です。収入が少ないときは、525,000円(収入額200万円以上、250万円未満)、490,000円(収入額200万円未満)と金額が変わります。また、居住地域の区分が第3区、第4区であるときは収入額200万円以上で勤労必要経費が505,000円となります。
最低生活費は、家族構成によって大きく変わってきます。居住地域が上記4人家族と同じ東京23区であっても、家族構成が違う場合にはそれぞれ最低生活費が次のようになります。
・夫婦と、子(15歳) 3,639,000円
・夫婦のみ 2,970,000円
・独身 2,218,000円
2.手取り収入額の計算
「手取り収入額」は、「税金等を控除する前の総収入額」から、「所得税相当額」、「住民税相当額」、「社会保険料相当額」を差し引くことにより算出します。
給与所得者の方であれば、現実の手取り給与の金額だと考えても、大きな違いは無いかもしれません。
手取り収入額を計算するには、源泉徴収票、課税証明書(住民税証明書)がそれぞれ2年分必要です。1年間あたりの手取り収入額の計算は次のようにします。
- 過去2年間の収入合計額を算出します。これは、税金等を控除する前の総収入額であり、源泉徴収票では「支払金額」の欄にある金額です。
- 過去2年間の収入合計額から、過去2年間の所得税相当額、過去2年間の住民税相当額、過去2年間の社会保険料相当額をマイナスしたのが、2年間の手取り収入額です。
- 所得税相当額 源泉徴収票の「源泉徴収税額」
- 住民税相当額 課税証明書(住民税証明書)の「年税額」
- 社会保険料相当額 源泉徴収票の「社会保険料等の金額」
源泉徴収票、課税証明書(住民税証明書)の作成者により、項目名が少し異なる場合もありますが、いずれも源泉徴収票、課税証明書(住民税証明書)の中に、必ず記載されています
- 上記の金額を2分の1したのが、1年間あたりの手取り収入額です。
3.可処分所得額の計算
「1年間あたりの手取り収入額」から、「1年間あたりの最低生活費」をマイナスしたのが、「1年間あたりの可処分所得額」です。
上記により計算した1年間あたりの最低生活費が4,296,000円ですから、1年間あたりの手取り収入額が4,800,000円ならば、1年間あたりの可処分所得額は504,000円です。さらに、この2年分である1,080,000円が給与所得者等再生における計画弁済総額の最低額となります。
債務の額が500万円だったとして、計画弁済総額の最低額が108万円であれば、小規模個人再生でなく給与所得者等再生を選択する価値は十分にあるでしょう。しかし、収入の額が増えれば、その分だけ計画弁済総額の最低額が増えていくこととなります。
また、1の「最低生活費の計算」で書いたとおり、家族構成が違えば最低生活費が大きく変わってきます。夫婦と子(15歳)の場合だと、最低生活費は3,639,000円なので、1年間あたりの手取り収入額が4,800,000円ならば、1年間あたりの可処分所得額は1,161,000円です。
そして、この2年分である2,322,000円が給与所得者等再生における計画弁済総額の最低額となります。夫婦のみの場合、独身の場合には、さらに計画弁済総額の最低額が増えてしまいますから、給与所得者等再生を選択するのは現実的で無いことが多いでしょう。
上記からいえる大ざっぱな目安としては、夫婦と子が2人以上いる家族で、手取り収入が500万円以内位である場合には、給与所得者等再生の利用を検討すべきといえるでしょうか。
4.居住地の区分による最低生活費の違い
最低生活費は住んでいる場所(居住地の区分)によって変わります。居住地域の区分は第1区から第6区があります(区分については、「居住地の区分の表」をご覧ください)。
居住地域の区分が第2区で、夫(42歳)、妻(39歳)、子(15歳)、子(13歳)の場合の最低生活費は4,052,000円となります(諸条件により金額が異なる場合もあります。以下も同様です)。また、家族構成が違う場合は次の通りです。
・夫婦と、子(15歳) 3,421,000円
・夫婦 2,782,000円
・独身 2,081,000円
さらに、居住地域の区分が第3区であれば次のようになります。
・夫婦、子(15歳)、子(13歳) 3,874,000円
・夫婦と子(15歳) 3,270,000円
・夫婦 2,661,000円
・独身 1,986,000円
居住地域の区分が変われば、第2区、第3区・・・と最低生活費が下がっていくので、同じ収入の金額でも計画弁済総額の最低額が上がっていってしまうこととなります。
ここまで見てきたように、給与所得者等再生の場合にはやはり「計画弁済総額の最低額」が高額になってしまうため、小規模個人再生を選んだ方がよいと判断されることが多いと思われます。それでも、この人数と収入のバランスによっては、給与所得者等再生を積極的に選択すべき場合もあるわけです。