相続放棄をする際には、家庭裁判所へ相続放棄申述書および戸籍謄本等の必要書類を提出します。相続放棄申述書の書式や記載例は裁判所のウェブサイト(相続の放棄の申述)でご覧になれます。

この相続放棄申述書の「申述の理由」の欄には、「相続の開始を知った日」を書くようになっています。この相続の開始を知った日には次の4つの選択肢があります。

  1. 被相続人の死亡の当日
  2. 死亡の通知を受けた日
  3. 先順位の相続放棄を知った日
  4. その他

家庭裁判所へ相続放棄の申述が出来るのは、自己のために相続の開始があったのを知った時から3ヶ月以内です。よって、上記の「相続の開始を知った日」をどのように書くかが、相続放棄の申述が受理されるかの判断に当たって極めて重要であることになります。

ここでは、「相続の開始を知った日」に書くべき年月日、そして、上記4つの選択肢からどれを選ぶべきかについて解説します。

1.自分で相続放棄しようとする場合のご注意

2.相続の開始を知った日の書き方

2-1.被相続人死亡の当日

2-2.死亡の通知を受けた日

2-3.先順位者の相続放棄を知った日

2-4.その他

1.自分で相続放棄しようとする場合のご注意

相続放棄申述書は裁判所による記載例などを見れば、何となく正しいように作成することはできるでしょう。そして、家庭裁判所でも書類の形式が整っていれば受付はしてくれるものと思われます。

ただし、相続放棄の手続きは、相続放棄申述書を家庭裁判所に提出するだけで完了するわけではありません

相続放棄申述書を家庭裁判所に提出した後には、裁判所からご自宅に宛てて文書による照会(問い合わせ)がおこなわれるのが通常です。この照会書(回答書)に正しく記入をして家庭裁判所に返信することで、ようやく相続放棄が受理されることとなります。

相続放棄申述書の作成および家庭裁判所への提出。そして、家庭裁判所からの照会書(回答書)へ正しく記入すること。これらを全てご自分で正しくおこなえると判断できる場合は、専門家の手を借りずにご自分で相続放棄の手続きをして差し支えないと思います。

けれども、少しでも不安がある場合には、家庭裁判所への申立をするよりも前に専門家(司法書士、弁護士)へ相談することをお勧めします。家庭裁判所へ相続放棄の申述ができるのは1回のみです。ご自分で手続きをしてしまって、万が一うまく行かなかった場合でも、何度も手続きをすることはできません。

2.相続の開始を知った日の書き方

相続放棄申述書の「申述の理由」の欄にある、「相続の開始を知った日」には次の4つの選択肢があります。

  1. 被相続人の死亡の当日
  2. 死亡の通知を受けた日
  3. 先順位の相続放棄を知った日
  4. その他

2-1.被相続人死亡の当日

被相続人の配偶者や子が相続放棄をする場合、通常はこの選択肢を選ぶことになるでしょう。

ただし、配偶者や子であっても、被相続人が死亡したのを当日に知ることができない場合もあります。そのときは、他の選択を選ぶことになります。

また、「被相続人死亡の当日」を選択した場合には、死亡した日から3か月以内でなければ相続放棄が認められないこととなります。よって、亡くなった事実は当日に知っていたものの、死亡から3ヶ月が経過した後になって借金や保証債務などが発覚したことにより、3ヶ月の期間経過後に相続放棄するような場合には選択すべきではありません。

この場合には、「4 その他( )」を選択した上で、()内には「債権者からの通知が届いたことにより債務の存在を知った日」のような書き方をします(または、()内には「別紙のとおり」とした上で、別紙において詳しい事情説明をします)。そして、相続の開始を知った日を、債務の存在を知った日付にするわけです。

2-2.死亡の通知を受けた日

家庭裁判所への相続放棄申述は「自己のために相続の開始があったことを知った時」である、相続開始の原因である事実、および自分が法律上の相続人となった事実を知った時から3ヶ月以内にしなければなりません。

「相続開始の原因である事実」とは、被相続人が死亡したとの事実です。したがって、被相続人が亡くなったことを知らずにいた場合、死亡日からどれだけ経っていたとしても、知ったときから3か月以内であれば相続放棄をすることができます。

親子であっても、長年に渡って全く交流がなかったような場合には、亡くなったことを知らずにいることもあります。また、戸籍上は夫婦のままであっても、別居してから長い年月が経ち音信不通になっているような場合もあります。

このようなときは、債権者からの通知やその他のきっかけにより、被相続人の死亡の事実を知った時から3ヶ月以内であれば相続放棄ができるわけです。したがって、「死亡の通知を受けた日」を選んだ場合には、相続の開始を知った日もその日付となります。

なお、「死亡の通知を受けた日」から3ヶ月以内に相続放棄をする場合には、債務の存在が発覚したなどの特別な事情は求められません。知った時から3ヶ月以内であれば理由の如何を問わず、相続放棄をすることが可能であるわけです。

2-3.先順位者の相続放棄を知った日

被相続人に子がいる場合には、子が相続人となります。そして、子(または、その代襲者)の全員が相続放棄したときのみ、被相続人の直系尊属(または、兄弟姉妹など)が相続人になります。

先にも書いたとおり、相続放棄ができるのは「自己のために相続の開始があったことを知った時」である、相続開始の原因である事実、および自分が法律上の相続人となった事実を知った時から3ヶ月以内です。

「自分が法律上の相続人となった事実」とは、先順位の相続人が相続放棄したことで、自分が法律上の相続人となった事実を知ったことをいっています。つまり、先順位の相続人が相続放棄したことにより自分が法律上の相続人になっていたとしても、その事実を知らずにいたとしたら、知った時から3ヶ月以内であれば相続放棄ができるわけです。

したがって、「先順位者の相続放棄を知った日」を選んだときは、その日から3か月以内であれば相続放棄が可能であることになります。たとえば、先順位者が相続放棄したものの、その事実を知らされていなかったような場合は、先順位者が相続放棄してから3か月以上が経過していたとしても、知ったときから3か月以内であれば相続放棄ができるわけです。

ただし、先順位者が相続放棄してから長い年月が経過しているようない場合には、スムーズに相続放棄が受理されるようにするため、家庭裁判所への申立時に事情説明書などを併せて提出するのがよいかもしれません。

2-4.その他

上記の3つに当てはまらない場合に、その他を選択します。ただし、その他を選んだ場合に相続放棄が受理されるのは、上記3つには該当しないものの、相続放棄が受理されるべき特別な事情がある場合などに限られます。典型的な例としては、先にも書いたとおり「亡くなったのは当日に知っていたが、後になって借金や保証債務などが発覚したことにより相続放棄する」ようなときです。

相続開始から3か月が経過していても、特別な事情がある場合には、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識できるはずの時から、熟慮期間の3ヶ月が開始するとされています。そのようなときは、その他を選択した上で、詳しく事情説明をすることとなります。

事情については、相続放棄申述書に書ききれなければ、別紙として事情説明書(上申書)などを作成して同時に提出します。ただし、相続が開始した事実を知ってから3か月が経過した後の相続放棄については、相続放棄の手続きに精通した専門家(司法書士、弁護士)に相談した上で手続きを進めるべきです。

なお、弁護士や司法書士であっても相続放棄手続きに詳しくない人に相談してしまった場合には、今から相続放棄するのは無理だと安易に断言されてしまったというような話もよく耳にしますのでご注意ください。下記リンク先のページなども参考にして、相続放棄に詳しい専門家へご相談することをお勧めします。

特別な事情がある場合の熟慮期間の始期(3ヶ月経過後の相続放棄について)