相続放棄の手続きは家庭裁判所でおこないます。この家庭裁判所への相続放棄申立の手続きは、司法書士や弁護士に依頼するほかに、相続人が自分自身でおこなうことも認められています。

実際にも、家庭裁判所への相続放棄申立ての手続きを、専門家に頼まず相続人が自分でおこなおうとする方もいらっしゃいます。

まず、「相続放棄は自分で出来るのか?」については、相続開始(被相続人の死亡)から3ヶ月以内であり、相続財産の処分などについて特別な事情が存在しない場合であれば、専門家に頼まずに自分でおこなうことも可能でしょう。

その場合、家庭裁判所へ相談に行ったり、裁判所ホームページの相続の放棄の申述を見るなどすれば、申立書(相続放棄申述書)の書式や必要書類を確認することができます。

しかし、次のような場合には最初から専門家(弁護士、司法書士)に相談することをお勧めします。

相続放棄は自分で出来るのか
1.回答書を自分で書けるか心配
2.相続開始から3ヶ月が経過している
3.相続財産の処分などに分からないことがある

1.回答書を自分で書けるか心配

家庭裁判所に相続放棄の申立てをすると、その後に文書による照会がおこなわれるのが通常です。裁判所から質問事項が書かれた文書が郵送されてくるので、回答書に記入して返送するわけです。

相続放棄申述を受理するかどうかの判断にあたっての特別な事情が存在しない場合であれば、とくに難しい内容を質問されることは通常ないはずです。そうはいっても、専門家に依頼せずに自分で申立てした場合には、どのように回答書へ書いたらよいか分からないこともあるでしょう。

回答書の書き方だけを専門家に相談することも考えられますが、その場合は有料の相談となるのが通常でしょう。また、自分で申立てをしてしまった場合についての相談は、受け付けてくれる専門家を探すのが大変かもしれません。

相続放棄の申述がいったん却下されてしまったら、再度の申立をすることはできません。書類の書き方が少しくらいおかしかったとしても、それだけでただちに却下されることはないと思われますが、ちょっとでも心配があるならば専門家に依頼するべきです。

2.相続開始から3ヶ月が経過している

相続開始から3ヶ月が経過しているときであっても、3ヶ月経過後に多額の債務が発覚した場合などでは、それからの相続放棄が可能なこともあります。

これは、昭和59年の最高裁判決で、「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていた」ことや、「相続人がそのように信ずるについて相当な理由があると認められる」といった事情がある場合には、例外的に3ヶ月の起算点が後ろに繰り延べられるとされたことによります。

相続開始から3ヶ月が経過した後の相続放棄申述が受理されるかは慎重な判断が必要です。そして、今からの相続放棄が可能であると判断した場合であっても、どのような事情により3ヶ月の起算点が後ろに繰り延べられるのかを、最高裁判決に沿ったかたちで裁判所に示す必要があります。

このような場合に、自分で申立てだけをしてしまった後になって、「回答書の書き方などについて相談したい」というようなお問い合わせをいただくこともあります。たとえ、相談を受け付けてくれる専門家が見つかったとしても、最初が間違っていたとするとどうにもならない恐れもあります。

ネットで調べれば何とかなると思う方もいらっしゃるでしょうが、様々なサイトを見てみたとしても、そこに書いてあることが正しいかも判断できないはずです。ネットで調べるならば、弁護士や司法書士の本人が書いたもののみを見るようにすべきですが、それでも全てが正しいとは限りません。

3.相続財産の処分など分からないことがある

被相続人がかけていた保険、暮らしていたアパートの退去、所有していた自動車の処分、その他にも様々なものについてどう処分すべきか頭を悩ませる方が多いようです。

実際、「○○をどうしたらいいかを聞きたい」というような問い合わせもよくいただくのですが、多くの場合は1つの疑問が解消しても、他にも分からないことがいろいろ出てくるものです。

専門家に依頼する重要な意味は、申立てを作成してもらうためだけではありません。それ以外の、様々な不明点を解消したり、さらには債権者への対応などについても相談できるからこそ、専門家に依頼する意味があるのです。

たとえば、相続放棄を専門家に依頼して5万円の費用がかかったとします。この費用には、申立書の作成や裁判所への提出だけではなく、回答書の書き方についての指導や、それ以外の様々な相談費用が全て含まれているのが通常でしょう。

相続放棄に関する全ての手続きや相談をおこなえるのであれば、司法書士や弁護士に支払う費用は決して高くないとも考えられます(ただし、依頼する事務所によって費用や頼める範囲も異なりますから、事前に確認するべきです)。

この記事に書いてあることを読んでみても、やはり出来ると考えるのであれば、相続放棄の手続きを自分でするのもよいでしょう。しかし、少しでも不安を感じるならば、やはり専門家に相談することをお勧めします。