自己破産申立ての前に、父親が亡くなっているというようなときには、相続財産の有無やその処分の仕方などに注意が必要です。

遺産分割が済んでいない相続財産があれば、自己破産の申立時には法定相続分に相当する相続財産が、財産目録に記入すべき財産となります。

また、すでに遺産分割協議をおこなっている場合、その分割内容によっては、破産管財人による否認対象行為になる可能性があります。

共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである(最判平成11年6月11日)。

それでは、自己破産の申立前に、家庭裁判所で相続放棄の手続きをした場合、破産手続においてどのように取り扱われるのでしょうか。

相続放棄のような身分行為については、詐害行為取消権行使の対象とならないとする判例があります。

詐害行為消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいっても、また法律上の効果からいっても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである(最判昭和49年9月20日)。

上記により、自己破産の申し立てをする前に相続放棄をすれば、相続財産を債務者の財産としなくていいことになるわけです。

しかし、相続放棄ができるのは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」ですから、自己破産をするときになってから相続放棄をしようと思っても期限が過ぎてしまっていることもあるでしょう。

また、相続放棄が可能なのは「破産手続の開始決定前」です。破産者が破産手続開始の決定後にした相続放棄は、破産財団に対しては、限定承認の効力を有するとされています。

破産法第238八条(破産者の単純承認又は相続放棄の効力等)
 破産手続開始の決定前に破産者のために相続の開始があった場合において、破産者が破産手続開始の決定後にした単純承認は、破産財団に対しては、限定承認の効力を有する。破産者が破産手続開始の決定後にした相続の放棄も、同様とする。
2 破産管財人は、前項後段の規定にかかわらず、相続の放棄の効力を認めることができる。この場合においては、相続の放棄があったことを知った時から3月以内に、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

上記により、自己破産(破産手続開始)の申立てをしても、破産手続の開始決定前であれば相続放棄ができることになります。自己破産申立てと相続の開始とが前後するようなときには、専門家に相談し手続きの選択と進め方を検討するべきです。