個人債務者の破産手続には、管財手続と同時廃止手続があります。債務者の財産が少なくて破産手続の費用も出ないような場合、裁判所は、破産管財人を選任せず、破産手続開始決定と同時に破産手続を廃止(同時破産廃止)する決定をします。

なお、このページで解説しているのは、資産による基準です。資産による基準の他にも、法人の代表者や個人事業者が破産申立をする場合や、資産調査が必要なとき、偏頗弁済があるとき、免責調査が必要なときなど、管財手続きになることがあります。

管財手続と同時破産廃止手続(目次)
1.同時破産廃止の手続
2.管財手続と同時廃止手続との振り分け基準

1.同時破産廃止の手続

「裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない」とされています(破産法216条1項)。

「破産手続開始の決定」と同時に「破産手続廃止の決定」をするということは、つまり、破産手続はおこなわれないわけです。これを「同時破産廃止」といいます。

同時破産廃止の決定がされたときは、破産管財人は選任されないので、配当等の手続がおこなわれることともなく、ただちに破産手続が終了します。

個人の自己破産の多くは、同時破産廃止の手続となっています。管財事件の手続では予納金(20万円から50万円程度)がかかるのに比べると、非常に低額で手続ができます。

また、破産管財人が選任されることなくただちに破産手続が終了するため、破産管財人への郵便物が転送されてしまうなどの不都合も生じません。

2.管財手続と同時廃止手続との振り分け基準

管財手続と同時廃止手続の振り分けの基準は裁判所により異なる場合があります。たとえば、横浜地方裁判所本庁では、資産について次の基準に当てはまる場合に管財手続にするとされています。

債務者が保有している個々の資産(預金、保険解約返戻金、退職金債権の8分の1、自動車などのいずれか)が20万円(現金の場合は33万円)以上の場合

私が把握している限り、横浜地方裁判所以外でも、東京地方裁判所、千葉地方裁判所においても上記と同様の基準になっていると思われます。つまり、現金については33万円以上を保有している場合に管財手続とされるわけです。

99万円までの現金は自由財産とされていますが、管財事件の基準はそれとは異なり、33万円以上の現金を保有している場合には管財事件とされるのです(そもそも、自由財産拡張の制度は、管財手続と同時廃止手続の基準に影響するものではありません)。

また、預金が20万円以上である場合、自由財産拡張(破産法34条4項)の申立の対象となりますが、自由財産拡張の制度は、同時廃止手続で適用されるものではありません。

このことは、「裁判所は、前項の決定をするに当たっては、破産管財人の意見を聴かなければならない」(破産法34条5項)とされていることからも分かります。

したがって、現金以外については、個々の資産が20万円以上である場合に、管財手続とされます。

たとえば、預金が15万円、保険解約返戻金が15万円である場合、個々の資産は20万円未満ですから同時廃止手続とすることが可能です。

ところが、預金が25万円、保険解約返戻金が5万円である場合には、合計額は上記と変わらないのにもかかわらず、管財手続きとなるわけです。

預金口座が複数ある場合、その総額が20万円以上であるかが、管財手続と同時廃止手続の振り分けの基準となります。また、保険契約が複数ある場合の保険解約返戻金も同様に考えます。

なお、 横浜地方裁判所本庁による説明文書には「20万円未満(現金の場合は33万円未満)の個々の資産が積み重なって多額になった場合は、管財事件で進めることもあります」と書かれています。

上記の基準では同時廃止手続になるはずの場合であっても、管財事件とされる場合もあるわけです。