個人事業者(自営業者)が債務整理をする場合、給与所得者(サラリーマン、パート、アルバイト)の場合と比べて、特別に検討すべきことはあるのでしょうか。任意整理、自己破産、民事再生の場合とに分けて考えてみます。

個人事業者の債務整理(目次)
1.任意整理は個人事業者でも可能
2.自己破産では原則として管財手続になる
3.民事再生では小規模個人再生が利用可能
4.自己破産と民事再生のどちらを選ぶべきか

1.任意整理は個人事業者でも可能

任意整理の場合には、個人事業者だからといって特別に問題が生じることはないのが通常でしょう。

クレジットカード会社や消費者金融との間で任意整理の和解交渉をするとき、債務者(借り主)が個人事業者だからといって特別な書類の提出を求められるようなことはありません。

また、銀行カードローンを任意整理する場合、保証会社である消費者金融、クレジット会社等との間で任意整理の和解交渉をします。したがって、個人事業者が銀行カードローンの任意整理をする場合も同様です。

そもそも、任意整理をする場合には、勤務先等の確認を口頭でされることはあっても、給与明細等の提出は求められないのが普通です。

個人事業者の場合であっても、確定申告書の写しなどを出せと言われることはありませんし、任意整理の和解交渉において特別に審査が厳しくなるようなこともないはずです。

つまり、支払いできると自己申告する限りにおいて、個人事業者であっても任意整理は問題なくおこなえることになります。

2.自己破産では原則として管財手続になる

自己破産の手続きでは、さしたる資産のない給与所得者である場合には、同時破産廃止の手続になるのが通常です。ところが、個人事業者である(または、個人事業者であった)人の場合には、原則として管財手続となります。

個人事業者については、給与所得者と比べて収入や支出が不透明な場合が多く、破産管財人による資産の調査が必要だとされているためです。

ただし、司法書士である私が破産申立書等の作成をおこなったケースで、個人事業者であっても同時破産廃止の手続になったことは少なからずあります。

事業を既に廃止していて事業上の資産や在庫もほとんど存在しなかったり、また、現在も事業を営んでいる場合であっても売上がごく僅かであったような場合です。

いずれのケースにおいても、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足する」ことが明らかであり、さらに破産管財人による調査までは必要ないと判断されたのだと思われます。

しかしながら、個人事業者の場合には管財手続になるのが原則なのですから、同時破産廃止になるのを安易に期待して自己破産を選択すべきではないでしょう。

3.民事再生では小規模個人再生が利用可能

個人債務者の民事再生手続には、給与所得者等再生、小規模個人再生の2種類があります。

給与所得者等再生を利用できるのは、サラリーマンなど将来の収入が確実で簡単に把握することが可能な人のみなので、個人事業者が利用することはできません。

しかし、小規模個人再生は、将来において継続的に収入を得る見込みがあって、無担保債務の総額が5000万円以下の人であれば、個人事業者であっても利用可能です。

そもそも、個人債務者の民事再生手続では、給与所得者であっても小規模個人再生を選択しているのが大多数なのですから、個人事業者が小規模個人再生しか利用できなくとも何ら問題がないといえます。

また、破産の場合には、個人事業者だと原則として管財手続になってしまうため、給与所得者の場合と比べて負担が大きくなる場合があります。

けれども、民事再生の場合には、同時破産廃止と管財手続のような区分がありませんから、個人事業者だからといって特に負担が大きくなることはありません。

なお、裁判所によっては、給与所得者の場合には個人再生委員が不要なのに、個人事業者の場合には個人再生員が選任される取り扱いになっているかもしれません。その場合には、再生委員の報酬として15万円~20万円程度を裁判所に納める必要があります。

そのような取り扱いになっていない、たとえば、全件について個人再生員を選任するとしている裁判所であれば、給与所得者でも個人事業者でも民事再生(小規模個人再生)にかかる、手続や費用は同じであることになります。

4.自己破産と民事再生のどちらを選ぶべきか

当事務所が多く申立をしている裁判所では、司法書士が書類作成をしての本人申立による民事再生の手続では、全件について個人再生委員が選任されています。そのため、給与所得者でも個人事業者でも、裁判所費用と司法書士報酬の合計は同じです。

そして、自己破産を選択した場合のように、予想に反して管財手続となり多額の裁判所費用がかかるようなリスクがないこともあり、民事再生(小規模個人再生)を積極的に活用しています。

もちろん、民事再生の手続では自己破産した場合と違い、再生計画に従った少なくない金額の支払いが必要となります。そのため、たとえ管財手続になったとしても、債務者本人が支払う金額の総額は自己破産の方が少なくなるでしょう。

また、弁護士が代理人となっての自己破産申立ならば、予納金(破産管財人の報酬)が20万円になるなど、通常の管財手続よりも費用が安く済む裁判所もあります。

それでも、民事再生ならば破産者の場合のような資格制限もありません。また、ローン支払中の住宅がある場合に、その持ち家を維持したまま債務整理をすることも可能です。

そもそもの問題として、少額であっても支払った上で残額が免除される民事再生と、債務の全てについて免責を受けようとする自己破産を、費用の面だけで比較するべきでもありません。

自己破産と民事再生のどちらを選ぶべきかについては、経験豊富な専門家(弁護士、司法書士)に相談して決定するべきですし、1人だけではなく複数の専門家に相談した上で決定ることも必要かもしれません。