個人版民事再生では、支払うべき借金の額が5分の1にまで減額される可能性があります(この5分の1というのは借金の総額が500万円以上1500万円未満の場合で、住宅ローン特則を利用する場合の住宅ローンの残債務額は除きます)。

個人版民事再生には、小規模個人再生、給与所得者等再生の2種類があります。給与所得者等再生では、再生計画に基づく弁済の総額(以下、「計画弁済総額」とします)が、「可処分所得の2年分以上」でなければならないとの要件があるため、小規模個人再生を選択した場合に比べて、計画弁済総額が多くなってしまう場合が多いです。

そのため、給与所得者等再生が利用できる場合でも、小規模個人再生が選択される場合が多いようであり、この記事でも特に明記しない限り小規模個人再生の利用を前提としています。

個人版民事再生で借金はどれだけ減額されるか(目次)
1.借金はどれだけ減額されるか
2.再生計画の清算価値保証原則
2-1.退職金の精算価値
2-2.不動産の清算価値

1.借金はどれだけ減額されるか

個人版民事再生では、計画弁済総額の下限が、債務総額(基準債権の総額)に応じて次のとおり定められています。

債務総額 最低弁済額
100万円未満 債務の総額そのまま
100万円以上500万円未満 100万円
500万円以上1500万円未満 債務の総額の5分の1
1500万円以上3000万円未満 300万円
3000万円以上5000万円未満 債務の総額の10分の1

債務総額が500万円ならば、その5分の1である100万円が計画弁済総額の下限となります。そして、この100万円というのは計画弁済総額の「下限」ですから、債務総額が500万円の場合でも計画弁済総額を200万円とか300万円とすることも出来るわけです。

個人版民事再生のうち小規模個人再生では、債権者による再生計画案の決議があります。そこで、計画弁済総額を下限の100万円にした場合、そんな少額の弁済では賛成できないとして、再生計画案に不同意の議決権行使をしてくるのでは無いかとの不安を持たれるかもしれません。

けれども、再生計画案に反対してくるのは特定の一部の債権者であり、それらの債権者は多くの場合、計画弁済総額がどうであるかにかかわらず一律で反対しているものと思われます。よって、個人版民事再生によれば、支払うべき借金の額が5分の1にまで減額されると考えて通常は差し支えありません。

ただし、再生計画は清算価値保証原則も満たしていなければなりませんので、財産が多い場合にはその分だけ計画弁済総額が増えてしまうことがあります。

2.再生計画の清算価値保証原則

清算価値保証原則とは、債務者が破産した場合に債権者が得られる弁済以上の再生計画でなければならないというものです。民事再生法では、「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するときには、裁判所は、再生計画不認可の決定をする」と規定しています(民事再生法174条2項4号)。

清算価値は再生債務者の保有する財産の合計により算出します。具体的には、現金、預貯金、貸付金、積立金、退職金見込額、保険解約返戻金、有価証券、自動車・バイク、過払い金、不動産、その他の高価品等などの合計が清算価値となります。

2-1.退職金の精算価値

退職金については、実際に退職していない場合には「自己都合で退職した場合の退職金額の8分の1」を清算価値としている裁判所が多いようです。それでも、勤続年数が長い場合には、清算価値の額が大幅に増えてしまうこともあるでしょう。

もしも、退職金見込額が1000万円だったとしたら、その8分の1である125万円が清算価値になります。この場合、他に清算価値に加える財産が全く無かったとしても、計画弁済総額の下限は125万円となります。

つまり、債務総額が500万円の場合でも計画弁済総額を100万円とする再生計画は認められないことになります。退職金以外にも、現金、銀行預金、保険解約返戻金などが清算価値に加わっていけば、それだけ計画弁済総額の下限が上がっていってしまうわけです。

2-2.不動産の清算価値

住宅ローン支払中の不動産を所有している場合、住宅ローンの残債務が不動産の評価額を上回っている(オーバーローン)ときには、不動産の清算価値はゼロとなりますから問題は生じません。

ところが、住宅ローンが残り少なくなっているようなときには、残債務額よりも不動産評価額の方が高くなっていることもあります。この場合には、不動産の評価額から住宅ローンの残債務額を引いた残額が清算価値となります。

不動産の評価額が1,000万円で、住宅ローンの残債務額が800万円だったとすれば、清算価値は200万円です。この金額が清算価値に加算されるので、計画弁済総額の下限がそれだけ上がってしまうことになります。

不動産の購入時よりも現在の評価額が大幅に下がっているとしても、住宅ローン残高が少なくなっているようなときは注意が必要でしょう。

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