夫婦がともに多重債務の状況にあるとして、その夫婦の一方だけが自己破産申立てをすることは認められるのでしょうか。

たとえば、「夫だけが自己破産して、妻はそのまま返済を続ける」とか、「妻だけが自己破産をして、夫は任意整理をする」といった方法が認められるかということです。

なお、ここでの解説は「多重債務の状況にある夫婦の一方だけが自己破産するのが認められるか」という点に回答しているもので、個々の状況によっては異なる結論になることもあるでしょう。

実際に手続きを選択するにあたっては、専門家(弁護士、司法書士)に相談した上で決定するようにしてください。

夫婦の一方だけの自己破産申立ては認められるのか(目次)
1.配偶者の借金を支払う義務は無い
2.夫は自己破産し、妻は返済を続ける
3.家計は一緒でも、別々に手続きが可能

1.配偶者の借金を支払う義務は無い

夫婦であっても、配偶者の借金を、もう一方の配偶者が支払う義務はありません。たとえば、妻の借金を、夫が支払う義務はありません。

夫が妻の借金についての保証人になっている場合は別ですが、消費者金融、クレジットカード、銀行カードローンなどからの借入で保証人が付いていることは少ないでしょう。

また、借金が日常の家事に関する債務である場合には、夫婦の一方が連帯してその責任を負うとの規定が民法にありますが、この規定に基づいて債権者が夫婦の一方へ請求してくるということはまずありません。

闇金などの違法業者は別として、正規の消費者金融、銀行、クレジットカード会社がそのような請求をしてくることはないと考えて良いでしょう。

民法761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

そうであれば、夫婦の一方だけが自己破産をすれば、その分だけ借金が減るということになります。

しかしながら、夫婦の家計が一緒であって、その家計の不足分を補うために夫婦それぞれが借金をしているような場合、夫婦の一方だけが自己破産すると債権者間に不平等が生じるようにも思えます。

2.夫は自己破産し、妻は返済を続ける

「夫だけが自己破産して、妻はそのまま返済を続ける」という場合を考えてみましょう。

夫が自己破産して免責されたとすると、夫に貸し付けしていた債権者は返済して貰えなくなるのに、妻に貸付をしていた債権者は継続して返済を受けられるわけです。

夫の返済分が無くなったことで夫婦の家計に余裕が出来たとすれば、妻分の借金については全額をキッチリと支払うことも可能になるかもしれません。

同一家計の夫婦に対して貸し付けしていたのに、たまたま妻に貸付をした債権者だけは得をすることになり、それは夫の債権者が損をしたことにもよるわけです。

同一家計である夫婦を一体の存在だと捉えると、一部の債権者だけに返済を継続する偏頗弁済(へんぱべんさい)をおこなっているようにもみえます。

3.家計は一緒でも、別々に手続きが可能

夫婦それぞれの借入の内容やその事情によって、個々のケースで判断は異なってくるかもしれませんが、夫婦ともに借金がある状況で、夫婦の一方だけが自己破産することは可能です。

少なくとも、「夫婦の一方だけが自己破産をして、もう一方は借金の返済を続けている」ということだけを捉えて、自己破産が認められないということはないでしょう。

夫婦の一方が返済を続けている状況では破産申立てを受け付けてくれないとか、夫婦のもう一方も同時に自己破産することを裁判所が求めてくるなどということはありません。

また、夫婦の一方が返済を続けていることを理由に、免責不許可になったりすることもないということです。

ただし、夫婦の一方しか自己破産申立てをしないことについて、裁判所から詳しく事情説明を求められることもあるでしょう。また、財産を隠すような意図が伺える場合には、破産管財人による調査などがおこなわれることにもなるはずです。

つまり、ここで解説している典型的なケースは次のような場合です。

夫婦の生活費が足りなくて、それぞれが借入をしていくうちに、夫婦の家計では返済が出来ない状況になってしまった。けれども、妻の借金はそれほど多くないので、夫のみが自己破産するというようなときです。

妻はそのまま返済していくこともあるでしょうし、任意整理をした上で返済をしていく場合もあります。

このようなケースにおいては、夫婦の一方だけが自己破産することを裁判所から特別に問題視されたりはしないということです。

債権者平等の原則からすると望ましいことではないとしても、夫婦といっても別人であることには変わりありませんから、裁判所が夫婦同時の自己破産申立てを強要することは出来ないということでしょう。