住宅ローンの支払いが困難になった方を対象にした、不動産の任意売却を仲介する業者があります。

任意売却についてのホームページを見ると、借入先との話し合いも代わりにしてくれるとか、残債務が大幅に減るから自己破産しなくても大丈夫などと書いてあります。

不動産を任意売却すれば、本当にそんなにうまく行くのでしょうか。

自宅を任意売却後の自己破産申立(目次)
1.どんな場合に任意売却を検討するのか
2.売却後の残債務が払えずに自己破産
3.本当に任意売却した方がいいのか
4.個人民事再生なら自宅を維持できる可能性も

1.どんな場合に任意売却を検討するのか


まず前提として、このような問題が生じるのは、自宅不動産を手放しても住宅ローンを完済できない、いわゆるオーバーローンの状態にある場合です。

住宅ローンの残債務よりも高い値段で不動産を売却できるならば、任意売却の業者などに依頼する必要はありません。

オーバーローンの状態にある不動産の場合には、売却するにしても借入先との交渉が必要になるでしょうし、売却後の残債務をどうするかという問題もあります。

任意売却の業者に依頼すれば、これらの問題が魔法のように解決してしまうようにも感じられますが、毎回そんなにうまく行くわけではありません。

2.売却後の残債務が払えずに自己破産


当事務所の自己破産申立のご依頼をいただいた方のケースです(実際の事例とは金額等を少し変えています)。

住宅ローンを組んでマンションを購入したものの、月々のローン支払いが厳しくなったため売却を考えるようになりました。

任意売却業者のホームページを見る限りでは、残債務もそれほど残らない金額で売却でき、その後の支払いも無理なく出来そうだと思いました。

しかし、現実に仲介の依頼をしてみると、高値で売却するための努力をしているような形跡も無く、任意売却するに至ってしまいました。

そのため、残債務が1,800万円弱あったのに売買代金は1,300万円強であり、最終的に元金のみでも500万円以上の債務が残ることに。

その後の債権者(債権回収会社)との交渉も、任意売却業者がうまくやってくれるなどということも無く、残債務の支払いについての話し合いもまとまりませんでした。

そのうちに、債権回収会社から裁判を起こされてしまったため、仕方なく自己破産の申立をすることにしました。

3.本当に任意売却した方がいいのか


任意売却の業者は、不動産を任意売却することで仲介手数料を得ることができます。高値で売却できた方が仲介手数料も高くはなりますが、それよりも手間をかけずに効率よく売却したいと考えるのが自然でしょう。

貸主(債権者)としても、最終的に裁判所による競売になってしまうよりは、任意売却した方が少しでも多く回収できる場合が多いですから、早い段階での任意売却を承諾するわけです。

よって、任意売却の業者と、貸主(債権者)にとっては、悪い話で無いということになります。

けれども、借り主に関しては、任意売却しても多額の債務が残ってしまうことが多いでしょう。自宅不動産を手放した後の債務を、何としてでも支払っていくというのであれば、任意売却をする意味はあります。

しかし、上で紹介した事例のように、支払い可能な金額での分割払いに債権者が応じてくれなかったため、結局は自己破産せざるを得ないということもあるでしょう。

どちらにしても自己破産することになるのであれば、事前に任意売却することなしに自己破産申立をする方が負担は少なくてしむかもしれません(所有不動産が明らかにオーバーローンの状態にあるならば、任意売却をせずに自己破産申立をしても、破産管財人が選任されずに同時廃止手続きなると思われます)。

任意売却をすることにより得をするのは、借主本人ではなく任意売却の業者ばかりだということもあるかもしれません。

4.個人民事再生なら自宅を維持できる可能性も


住宅ローンの支払いが厳しくなったため、自宅を任意売却により手放すことを決意したものの、結局は自己破産することになってしまったとしたら、それがベストな解決方法なのでしょうか。

住宅ローン以外にも借金があるために、住宅ローンの支払いが厳しくなっているのであれば、個人民事再生申立も検討してみるのがよいかもしれません。

個人民事再生によれば、住宅ローン以外の債務について大幅に減額される可能性がありますから、結果として無理なく住宅ローンが支払えるようになるかもしれません。

任意売却をするにしても、その前に借金問題の専門家に相談してみるべきです。個人民事再生や自己破産の手続きを取り扱える専門家は弁護士と司法書士に限られます。

借金問題に詳しい専門家に相談することで、どのような手続きを選択するのがベストなのかを判断して貰うことが可能です。いきなり任意売却の業者などに相談するより、まずは法律専門家に相談することをお勧めします。