この記事で対象にしているのは、個人の方の自己破産についてです。法人(会社)の自己破産については、弁護士を代理人として申立てするのが通常です(ただし、法人破産を取り扱っている司法書士も少数ですが存在します)。

自己破産申立での弁護士と司法書士の違い
1.司法書士だと本人申立てになる
2.同時破産廃止にならない場合
3.個人版民事再生の検討

1.司法書士だと本人申立てになる

個人の自己破産申立ては弁護士、司法書士のどちらに依頼することもできますが、弁護士は申立人(破産者)の代理人として自己破産申立てをすることができるのに対し、司法書士がおこなえるのは破産申立書などの書類作成のみであるというのが最大の違いです。

ただし、司法書士が破産申立書等の作成をおこなった場合、裁判所への申立ても司法書士がおこなうのが通常だと思われます。申立人ご本人の同行が必要な場合もあるとしても、「司法書士が書類を作ったから、後は自分で裁判所に提出してきてください」ということにはなりません。

裁判所により取り扱いは違いますが、破産申立てをした後の事務連絡(電話、郵便物)も全て司法書士事務所に倒しておこなわれるのが通常だと思われます。したがって、免責不許可事由などがとくに存在しない、同時破産廃止の手続きであれば、司法書士に依頼してもとくに不都合を感じることはないはずです。

それでも違いがあるとすれば、本人申立ての場合は裁判官との面接(審問)の場に、申立人(破産者)が1人で行かなければならないということです(裁判所によっては司法書士の同席を認めている場合もあり)。ただし、多数の破産申立てをおこなってきた私が知る限り、裁判官による審問で上手に話ができなかったから手続きが上手くいかなかったということはありません。

そもそも、経験豊富な司法書士であれば、個々のケースについて本人申立てで問題ないのか、弁護士を代理人にした方が良いのか判断できます。そのような司法書士が大丈夫だと言っているならば、心配する必要は無いと思われます。

2.同時破産廃止にならない場合

法人代表者、個人事業主の破産手続きや、個人であっても資産調査が必要、偏頗弁済がある、財産清算や免責調査が必要など、同時破産廃止でなく管財事件になる場合には弁護士を申立代理人にした方が良い場合が多いと思われます。

裁判所によっても異なるでしょうが、代理人申立ての場合には少額管財事件になるのに、本人申立てだと全て通常管財とされる取り扱いがなされていることもあります。そして、少額管財だと予納金が20万円なのに、通常管財だと予納金が最低50万円かかるという場合もあります。

せっかく、費用が安く済むからと司法書士に破産申立ての手続きを依頼したのに、裁判所に50万円の予納金(破産管財人の報酬)を納めることになってしまうのでは、費用の総額がかえって高額になってしまうかもしれません。それならば、弁護士に依頼して、少額管財(予納金20万円?)になった方が費用が安く済むこともあるでしょう。

また、免責不許可事由が存在する場合などでは、本人申立てだと管財事件になるのに、弁護士が申立て代理人になっていれば同時廃止で済むこともあるかもしれません。これは、弁護士が代理人としての責任において調査し、申立てをしているのに対し、書類作成者に過ぎない司法書士はそのような立場に無いからです。

よって、司法書士に自己破産の手続きを依頼して問題ないのは、法人代表者や事業主では無い個人であって、さしたる財産や免責不許可事由が存在しないというケースです。

たとえば、会社員やパート勤務の人が、収入の減少や失業を原因として、生活費の不足を補うために借金してしまったというような場合です。このような方についての自己破産申立てであれば、司法書士による書類作成でも全く問題ないと思われます。

3.個人版民事再生の検討

上記のように、同時破産廃止でなく管財事件になると予想される場合には、弁護士を申立て代理人にするのが無難だと思われます。裁判所により取り扱いが異なる場合もあるので、必ずしも上記のとおりだとは言えませんが、私が数多く申立てをしている裁判所においてはそのように判断しています。

それでも、弁護士では無く司法書士である私に依頼したいと言われることもしばしばあります。弁護士が嫌というよりは、さらにまた別のところに相談へ行くならば、何とかこの事務所に依頼してしまいたいという理由もあるでしょうが、何とかお願いしたいと頼まれるケースもあるわけです。

そのような場合に検討すべきは、個人版民事再生の利用です。当事務所所在地の裁判所では、本人申立ての場合には全て個人再生委員が選任されます。裁判所に予納金として納める個人再生員の報酬は、住宅資金貸付債権(住宅ローン)の特則を利用する場合は20万円、住宅ローンがない場合は15万円です。

住宅ローンがない場合で比較すると、自己破産では通常管財になってしまえば管財人の報酬として最低50万円(通常管財の場合)が必要なのに対し、民事再生ならば個人再生委員の報酬15万円で済みます。自己破産を選択し同時廃止になればもっと費用は安く済むことになりますが、管財事件になる可能性が高いと思われる場合には、自己破産(とくに本人申立)を選択するのは躊躇してしまいます。

そこで、民事再生を選択すれば、個人再生委員の費用15万円は必ず必要なものの、それ以上の高額な予納金が必要になることはありません。当事務所では個人版民事再生の司法書士報酬は27万円(消費税込み)が通常なので、裁判所費用との総額でも45万円程度となります。

それならば、弁護士に依頼して自己破産申立てをし、同時破産廃止になった場合と比べても費用総額が抑えられるかもしれません(もしも、弁護士に依頼して自己破産申立てをして、少額管財になれば更に費用がかかることになります)。

民事再生法には、破産の場合の免責不許可事由に相当する規定が無いので、自己破産では管財事件になったり、さらには免責不許可になったりという心配がありません。ただし、民事再生を利用するには定期的な収入を得ている必要がありますし、他にも利用するための条件があります。また、小規模個人再生では債権者の反対により再生計画案が否決される恐れもあります。

それでも、個人版民事再生は適切なケースで選択する限りにおいては、自己破産よりも結果の見通しが立てやすく利用しやすいといえるでしょう。