個人民事再生の手続きではローン支払中の住宅がある場合には、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することで、ローン支払中の住宅を手放すことなしに債務整理が可能となります。

住宅資金特別条項(住宅ローン特則)利用をするには様々な要件がありますが、それに加えて、「住宅ローンの残高」と「不動産の現在価値」についても注意すべき場合があります。

不動産の清算価値
1.住宅ローンがオーバーローンの状態にあるか
2.不動産の清算価値を計上すべきとき
3.不動産の価値の評価

1.住宅ローンがオーバーローンの状態にあるか

住宅ローンの残額」が「不動産の現在価値」を超えている状態を「オーバーローン」といいます。住宅ローン残額の方が大幅に高く、明らかなオーバーローンの状態にある場合には、住宅資金特別条項の利用にあたって、不動産の清算価値が問題になることはありません。

たとえば、住宅ローンの残額が3000万円で、不動産の現在価値が1500万円だったとすれば、住宅ローン残高の方が2倍もあるわけですから明らかにオーバーローンだといえます。この場合には、不動産を売却しても1500万円の債務が残りますから、現時点ではその不動産に清算価値がないことになります。

2.不動産の清算価値を計上すべきとき

ところが、不動産の現在価値が1500万円で、住宅ローンの残額が1200万円だったならば、不動産の現在価値の方が300万円上回っています。この場合には、仮に不動産を売却したならば300万円が手元に残るわけです。

よって、個人再生の手続きにおいては、この300万円が清算価値に計上されることになります。そうなれば、不動産の清算価値以外の他には、清算価値に計上すべき財産が存在しなかったとしても、再生計画による返済総額は最低でも300万円となってしまいます。

つまり、住宅ローン以外の債務総額が500万円である場合、民事再生法に定められた最低弁済額は100万円です。ところが、清算価値が300万円だとすれば、清算価値保証の原則により最低弁済額が300万円となるのです。

住宅ローンを長年にわたり支払ってきて残高が少なくなっているときや、住宅の購入時に頭金を多く入れている場合などには、現時点でオーバーローンの状態にあるのか確認すべきです。

3.不動産の価値の評価

不動産の価値の評価を確認するための資料としては、固定資産評価証明書、不動産業者による査定書などがあります。

固定資産評価証明書によって固定資産評価額を知ることができます。また、査定書はその不動産がいくらで売れるかを査定するものですから、実勢価格を表しています。

そして、固定資産評価額は、実勢価格よもり低くなっている場合が多いです。たとえば、実勢価格が1500万円の不動産の固定資産評価額が1200万円になっているといった具合です。

このとき、住宅ローンの残高が2400万円だったとすれば、固定資産評価額の2倍なので、明らかにオーバーローンの状態にあるといえます。このようなときには、実勢価格からみてもオーバーローンである可能性が極めて高いでしょう。

そこで、不動産の評価額を証する書類としては、固定資産評価証明書のみを提出すれば足りるとしている裁判所もあります(ただし、裁判所によっては全ての場合で不動産業者2社分の査定書の提出が必要とされることもあります)。

しかし、固定資産評価額が1200万円で、住宅ローン残高が1500万円だったときはどうでしょうか。この場合、実勢価格が固定資産評価額より高いとすると、オーバーローンの状態ではない可能性もあるでしょう。

このようなときには、少なくとも不動産業者2社分の査定書の提出が求められるはずです。不動産業者2社の査定額の平均を実勢価格であるとして、不動産の清算価値を評価するのです。

なお、街中にある不動産業者の中にも無料で不動産の査定を行ってくれるところは多くあります。ただし、その査定は売却することを前提にしていますから、実勢価格よりもだいぶ高い査定額となることもあり、清算価値の計算においては望まぬ結果になってしまう場合もあるでしょう。