自分よりも先順位の相続人が相続放棄したかを知りたいとのご相談がありました。

相続放棄した際に後順位の相続人がいれば、自分が相続放棄したことを知らせるのが通常でしょう。また、知らせてくれるかが心配なのであれば、相続放棄するのかどうかを先順位者に聞いてみれば済むことです。

しかし、先順位者が相続放棄したとしても知らせてくれることは期待できないし、自分から聞くこともできないという場合もあるでしょう。今回のご相談のケースでは次のような事情がありました。

自分から見ると伯父(叔父)に当たる人が亡くなりました。伯父には妻と子がいますが、伯父の生前にお金の問題をきっかけに関係が悪くなり、今では一切連絡を取り合っていない状況です。

伯父はかつて多額の借金を抱えていました。現在も借金が残っているかは分かりませんが、もしも、自分が相続人になることがあれば相続放棄をしておきたいと考えています。

上記のような状況であるため、伯父が亡くなったことは分かったものの、伯父の財産の状況は不明ですし、妻子が相続放棄するのかどうかも分かりません。

このような場合、現時点ではとくに何の手続きもせず状況を見守るということでも問題はありません。相続放棄をできる期間は、先順位者が相続放棄したことにより自分が相続人になったのを知った時から3ヶ月以内だからです。

この場合に、これから起きることを予想すると次のいずれかの可能性が高いと思われます。

  1. 被相続人は債務超過では無いので、妻子は相続を単純承認する。
  2. 被相続人(伯父)は債務超過のため、妻子が相続放棄をする。

1で妻子が相続を単純承認したとすれば、自分が相続人になることはありませんから、相続放棄をする必要は生じません。よって、この場合にはどこかから請求が来たりすることも無く、伯父の相続とは全く無関係であるということですから心配は無用です。

なお、債務超過であっても相続放棄しないという可能性もありますが、この場合も、自分は伯父の相続には関係ありませんから全く問題ないことになります。

次に、2で妻子が相続放棄したことにより、自分が相続人になっているとします。しかし、その事実を妻子が知らせてくれないため、自分が相続人になっていることは分かりません。

この場合、被相続に対する債権者(金融機関等)が、自分に対して請求をおこなってきたとすれば、妻子が相続放棄をしていたことがその時点で判明するわけです。したがって、その時から3ヶ月以内であれば相続放棄ができることになります。

ただ、大丈夫だとは言われても、被相続人が多額の借金を抱えているはずなのは明らかだというような場合に、どこかから請求が来るまで放っておくのでは心配だという方もいるでしょう。

そういうときには、家庭裁判所に対して「相続放棄・限定承認の有無の照会」をすることができます。具体的な手続きについては家庭裁判所に問い合わせするか、または、司法書士等の専門家に相談するのがよいでしょう。

相続放棄・限定承認の有無の照会をいつするべきか

相続放棄・限定承認の申述の有無照会をすれば、先順位者が相続放棄をしているか知ることができますから、その後、必要に応じて自分の相続放棄の手続きをすれば良いわけです。

なお、今回のご相談のように、被相続人の死亡の事実は知っているという場合、「相続放棄・限定承認の有無の照会」をいつすれば良いのかという問題もあります。

たとえば、被相続人の死亡から3ヶ月が経過する頃を狙って「相続放棄・限定承認の有無の照会」をした場合、もしも、被相続人の妻子が相続放棄の申立てをしたのが被相続人の死亡直後だったとすると、照会の結果が分かったときには先順位者の相続放棄から3ヶ月が経過しているかもしれません。

そのような場合であっても、先順位者が相続放棄したのを知った時から3ヶ月以内であれば相続放棄できるわけですから、手続きには全く支障がありません。この場合でいえば、裁判所から回答があった時を「先順位者が相続放棄したのを知った時」と考えれば良いわけです。

それでも、「先順位者が相続放棄した時から3ヶ月以内に、自分も相続放棄の申立てができないと心配」だという方もいるかもしれませんが、「相続放棄・限定承認の有無の照会」によりそれを実現するのは困難です。

相続放棄・限定承認の有無の照会により知ることができるのは、「申請日までの間に、相続放棄または限定承認の申述がなされているか否か」についてだからです。

そのため、被相続人の死亡後2ヶ月半が経過した時点で「相続放棄・限定承認の有無の照会」の申請をしたとすれば、被相続人の死亡から申請日までの間しか調査の対象とならないことになります(現実には、その後に相続放棄の申述があった場合でも教えてもらえるかもしれませんが、あくまでも調査の対象外であるわけです)。

上記申請日の後に、被相続人の妻子が相続放棄した場合には調査の対象とならないのですから、「先順位者が相続放棄した時から3ヶ月以内に、自分も相続放棄の申立てをしたい」ということにこだわると、何度も繰り返して連日のように相続放棄・限定承認の有無の照会をしなければなりません。

そんなことをする必要はありませんし、実際にしている人もいないでしょう。したがって、「相続放棄・限定承認の有無の照会」は、どんなに早くても被相続人の死亡後3ヶ月を経過してからするべきということになります。