時効の中断については、民法147条で次のように定められています。

(時効の中断事由)

第147条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。

1 請求

2 差押え、仮差押えまたは仮処分

3 承認

時効の進行中に上記の事由が発生した場合、時効が中断することで、それまで経過した期間が無意味になります。そして、中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始めます(民法157条1項)。

ここでは、それぞれの時効中断事由について解説します。

時効の中断(目次)
1.「請求」について
2.「差押え、仮差押えまたは仮処分」について
3.「承認」について
4.「催告」と時効の中断
5.「時効の利益の放棄」について

1.「請求」について

時効中断事由となる「請求」は、法的手続による請求でなければなりません。法的手続きによる請求とは、具体的には次の通りです。

  1. 訴訟の提起など裁判上の請求(民法149条)
  2. 支払督促(民法150条)
  3. 和解の申立て(民事訴訟法275条「訴え提起前の和解」)、または民事調停法もしくは家事事件手続法による調停の申立て(民法151条)
  4. 破産手続参加、再生手続参加、または更生手続参加(民法152条)

ただし、裁判上の請求により時効が中断するのは、上記の法的手続きにより権利の存在が確定されるからであり、権利の存在が確定されずに法的手続が終了してしまったときには時効中断の効力が生じません。具体的には次の通りです。

  1. 裁判上の請求 → 訴えの却下又は取下げの場合(民法149条)
  2. 支払督促 → 債権者が民事訴訟法392条の期間内に仮執行宣言の申立てをしないことによりその効力を失うとき(民法150条)
  3. 和解の申立て、または民事調停法もしくは家事事件手続法による調停の申立て → 相手方が出頭せず、または和解もしくは調停が調わないときは、1ヶ月以内に訴えを提起しないとき(民法151条)
  4. 破産手続参加、再生手続参加または更生手続参加 → 債権者がその届出を取り下げ、またはその届出が却下されたとき(民法152条)

2.「差押え、仮差押えまたは仮処分」について

差押え」により時効が中断するのは、強制執行、担保権の実行など確定した権利の実現手続きであるからです。また、「仮差押えまたは仮処分」は強制執行の準備手続きにあたるため時効が中断するとされています。

差押え、仮差押えおよび仮処分は、権利者の請求により、または法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じません(民法154条)。

また、差押え、仮差押えおよび仮処分は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じないとされています(民法155条)。

3.「承認」について

承認とは、債務者が自己に対する債権の存在を認めること、つまり、自分に支払い義務があるのを認めることです。

支払い義務があることを明確に認めた場合でなくても、債務が存在することを前提としておこなわれた行為があったときには、債務の承認があったものとみなされます。たとえば、利息のみの支払いや、元金の一部の支払いであっても、承認があったものとされてしまうわけです。

長期間支払いをしていなかった借金について債権者から請求(督促)があった場合、慌てて支払ってしまったり、ご自分で債権者に連絡をしてしまうのは危険です。消滅時効が完成している可能性があると考えるときは、債権者に直接連絡をしてしまう前に、専門家(認定司法書士、弁護士)に相談することをお薦めします。

消滅時効援用の相談

4.「催告」と時効の中断

法的手続きによらない請求については、「催告」(民法153条)として、「請求」(民法147条1号)とは区別されています。貸金業者、債権回収会社などよる請求書(督促状)、訴訟提起予告書などの送付はこの「催告」にあたります。

(催告)

民法第153条 催告は、6ヶ月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法もしくは家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押えまたは仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。

上記のとおり、催告をしても、それから6ヶ月以内に、時効中断事由となる「裁判上の請求」をしなければ、時効の中断の効力を生じません。

つまり、時効期間の経過が迫っている場合、取り急ぎ内容証明郵便により催告をすれば、6ヶ月間は時効期間が延長されることになります。しかし、それから6ヶ月以内に裁判上の請求などをしなければ、時効の中断の効力を生じないということです。

また、催告により時効期間が延長されるのは1度のみであり、催告してから6ヶ月以内に再び催告したとしても、何度も繰り返し時効期間を延長できるわけではありません。

5.「時効の利益の放棄」について

時効の利益とは、時効が完成することにより受けることができる利益のことです。消滅時効の場合でいえば、時効の援用をすることにより債務を免れることです。時効の利益を放棄してしまえば、その後に時効の援用をすることは認められなくなります。

時効の利益は、あらかじめ放棄することができません(民法146条)。たとえば、時効の利益を放棄させた上で、お金の貸付をするというようなことは認められません。また、時効期間を延長するとの合意をしても、その効力は認められません。

時効の完成後であれば、時効の利益の放棄をすることも認められます。たとえば、時効期間の経過後に、消滅時効の援用をすることなしに、債務の弁済をしても差し支えないわけです。

ただし、時効の完成を知った上で、自らの意思により時効の利益を放棄したのであれば問題は無いとして、時効が完成していることを知らずに債務の承認にあたるような行為をしてしまった場合はどのように判断されるのでしょうか。

この場合には、下記の最高裁判決により「債務者が、消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らなかつたときでも、その後その時効の援用をすることは許されない」とされています。相手方の信頼を保護する観点から、信義則上、時効の援用権が喪失したと判断されたわけです。

債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかつたときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろらから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである。また、かく解しても、永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反するものでもない(最判昭和41年4月20日)。

ただし、消滅時効の完成後に、貸金業者の請求に応じて債務の一部弁済をしてしまったような場合でも、債権者の請求が債務者の時効援用権を失わせるためにおこなわれたようなときには、その後に時効援用をすることが信義則に反しないものと考えられます。実際にも、時効完成後に支払いをしてしまったときであっても、その後に消滅時効援用をすることがみとめられた裁判例も多数あります。