自己破産の申立をしたいとのご相談のときに、すでに長期間に渡って支払いが出来ていなかったために、債権者から裁判を起こされているという場合があります。

債権者の請求を認める判決が出てしまったとしても、その後に自己破産の申立をして免責許可が確定すれば支払い義務は消滅することになります。したがって、自己破産申立て前に起こされている裁判に対しては、とくに対応をしなくとも問題が生じない場合も多いでしょう。

けれども、債権者から強制執行(給与差押えなど)の手続きがおこなわれる恐れがある場合、給与の差押えがされてしまうのを避けるためにはどうしたら良いのでしょうか。

1.裁判による給与差押えを避けるには

自己破産申立て前に裁判を起こされている場合で、給与差押えがされてしまうのを避けるには、すみやかに自己破産申立てをしてしまうことです。

自己破産の申立てをして同時破産廃止になる場合、破産手続廃止決定があったときは、次のとおり強制執行はすることが出来なくなります。

免責許可の申立てがあり、かつ、第216条第1項(破産手続開始の決定と同時にする破産手続廃止の決定)の規定による破産手続廃止の決定があったときは、当該申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行はすることができず、破産債権に基づく強制執行等の手続で破産者の財産に対して既にされているものは中止する(破産法249条1項)。

また、同時破産廃止とならず破産管財人が選任されるときは、破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行で、破産債権に基づくものはすることができません(破産法42条1項)。

よって、同時破産廃止の場合には破産手続廃止決定があったとき、破産管財人が選任される場合には破産手続開始決定があったときに、給与差差押えなどの強制執行が出来なくなりますから、可能な限りすみやかに自己破産申立てをおこなうべきだということになります。

なお、既に給与差押えがなされている場合、同時破産廃止のときには、破産手続廃止決定により「破産債権に基づく強制執行等の手続で破産者の財産に対して既にされているものは中止する」とされています。そして、差押えの効力が失効するのは、免責許可の決定が確定したときです(破産法249条2項)。

そのため、すでに差し押さえられている給与相当額のお金を受け取ることが出来るのは、破産手続廃止決定の後すぐではなく、免責許可の確定後だということになります。

2.破産申立てまでに時間がかかる場合

すでに訴訟を提起されている状況で、弁護士や司法書士に自己破産申立ての手続きを依頼した場合に、いくら給与差押えが心配だからといってもそんなにすぐに申立てがおこなえるとは限りません。

通常は申立費用(弁護士や司法書士の報酬、および裁判所費用)を用意するのにある程度の時間がかかるでしょう。仮に、親族の援助などにより直ちに申立費用が用意できたとしても、債権者からの債権届や、申立必要書類の準備などの時間も必要ですし、依頼する弁護士や司法書士の都合もあります。

そんなときには、裁判が終結して判決が確定してしまうのを少しでも先延ばしにするために、口頭弁論期日の前に答弁書を提出するなどの対応をすることも考えられます。

ただし、自己破産申立てとは別に訴訟への対応をするとなれば、弁護士や司法書士によっては別途費用がかかることもあるでしょう。また、すぐに自己破産申立てをすることが決まっているのですから、そもそもそのような対応をする必要は無いという方針の場合もあるかもしれません。

実際、最初に相談に行った弁護士のところでは、裁判は放っておけば良いとしか言われなかったというような話も聞いています。仮に判決が出てしまってもすぐに給与差押えまでしてくる可能性は極めて低いという判断なのかもしれませんし、もしくは、差し押さえられてしまったら仕方ないという考えなのかもしれません。

それでも、答弁書を出しておきさえすれば、最初の期日で弁論が終結しすぐに判決が出てしまうのを避けることは出来るでしょう。次の期日が1か月後になったとすれば、それだけ判決が出てしまうのを先延ばしにすることが出来るわけです。

その1か月にどれだけの意味があるかは個々のケースにもよります。そして、そもそも支払いをするつもりは無いのですから、払う素振りをして分割払いの和解をしたり、無理やり時間稼ぎをするようなことは避けるべきでしょう。

私自身の経験としては、答弁書には「債権調査中であり調査が済んだら債務整理方針を決定する」くらいのことを書いておけば、そんなのは駄目だと直ちに結審されてしまったりせず、次回期日についての連絡をしてきた書記官からもとくに何も言われていません。

ただし、繰り返しになりますが、裁判手続きを利用しての無理やりな時間稼ぎはするべきでないと考えていますので、この方法を使うのは「1ヶ月程度の猶予が出来ればそれまでに自己破産申立てが出来る」といったような場合に限定しています。そして、依頼する専門家(弁護士、司法書士)によっては違う考えもあるはずなので、あくまでも参考として捉えてください。

(参考条文)

破産法第42条(他の手続の失効等)
 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行、企業担保権の実行又は外国租税滞納処分で、破産債権若しくは財団債権に基づくもの又は破産債権若しくは財団債権を被担保債権とするものは、することができない。
2 前項に規定する場合には、同項に規定する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行及び企業担保権の実行の手続並びに外国租税滞納処分で、破産財団に属する財産に対して既にされているものは、破産財団に対してはその効力を失う。ただし、同項に規定する強制執行又は一般の先取特権の実行(以下この条において「強制執行又は先取特権の実行」という。)の手続については、破産管財人において破産財団のためにその手続を続行することを妨げない。
3 (以下省略)

破産法第249条(強制執行の禁止等)
 免責許可の申立てがあり、かつ、第216条第1項の規定による破産手続廃止の決定、第217条第1項の規定による破産手続廃止の決定の確定又は第220条第1項の規定による破産手続終結の決定があったときは、当該申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行、仮差押え、仮処分若しくは外国租税滞納処分若しくは破産債権を被担保債権とする一般の先取特権の実行若しくは留置権(商法又は会社法の規定によるものを除く。)による競売(以下この条において「破産債権に基づく強制執行等」という。)、破産債権に基づく財産開示手続の申立て又は破産者の財産に対する破産債権に基づく国税滞納処分(外国租税滞納処分を除く。)はすることができず、破産債権に基づく強制執行等の手続又は処分で破産者の財産に対して既にされているもの及び破産者について既にされている破産債権に基づく財産開示手続は中止する
2 免責許可の決定が確定したときは、前項の規定により中止した破産債権に基づく強制執行等の手続又は処分及び破産債権に基づく財産開示手続は、その効力を失う
3 (省略)