「遺産分割協議をしてしまった後に、相続放棄をすることが出来るのか?」とのご相談を、このところ立て続けにいただいています。具体的には次のような事例です。
被相続人の死亡後、他の相続人からの求めによって何らかの書類に署名押印してしまった。
自分は何の財産も相続しないのだから、署名押印したのは遺産放棄の書類だと思っていたし、それによって自分は相続放棄したものと考えていた。
ところが、今になって被相続人に対する債権者から請求を受けている。これから、相続放棄をすることは出来るのだろうか?
1.遺産相続の放棄と、相続放棄は違います
上記のようなケースでは、署名押印しているのは遺産分割協議書であると考えられます。
自分以外の「他の相続人に遺産を相続させる」との内容の遺産分割協議書へ署名押印したことにより、自身が遺産を相続する権利を放棄しているわけです。
たしかに、それでも相続を放棄しているように思えるかもしれませんが、遺産分割協議書へ署名押印しても、法律上の意味では相続放棄したことにはなりません。
したがって、被相続人に債務があった場合には、債権者からの請求を拒否することはできません。
被相続人の債務(借金)の支払い義務から逃れるためには、家庭裁判所で相続放棄の手続きをする必要があるのです。
2.遺産分割協議は相続財産の処分にあたるのか
それでは、他の相続人から言われるがままに遺産分割協議書へ署名押印してしまったが、後になって被相続人の債権者から請求が来てしまったような場合、それから相続放棄をすることは出来るのでしょうか?
結論からいえば、債務の存在を知るのが難しいような状況で、他の相続人からの求めに応じて遺産分割協議へ署名押印してしまっているような場合、自身が何の財産も相続していないのであれば、債務が発覚した時点での相続放棄が求められる可能性はじゅうぶんにあります。
つまり、「遺産分割協議への協力を求められた時点で債務の存在を知っていたならば、確実に相続放棄をしていたはずである」というようなケースでは、債務の存在が判明してからの相続放棄が認められる傾向にあるわけです。
ただし、遺産分割協議をするというのは、相続財産の存在を知った上でその処分をする行為に他なりませんから、遺産分割協議に応じた時点で単純承認の効力が生じているとの判断がなされることもあるでしょう。
3.遺産分割協議後の相続放棄が受理される場合
それでも、遺産分割協議をした後の相続放棄申述が受理されるケースは存在するのですから、すぐに諦めてしまうべきではありません。
法律の専門家に相談したときであっても、家庭裁判所における相続放棄申述受理の取り扱いに詳しくない場合には、「遺産分割協議は相続財産の処分にあたるから、その後の相続放棄は絶対に認められない」というように断言されてしまうこともあるようです。
ここまで書いてきたとおり、遺産分割協議をした後に相続放棄申述した場合であっても、必ず却下されるということはありません。あくまでも個々のケースによるのですし、相続放棄申述が受理されるケースも間違いなく存在します。
ご自身のケースでは相続放棄できるか分からないという場合には、相続放棄の手続きに詳しい専門家に相談するのが良いでしょう。