最初に確認しておきたいのは、相続放棄とは家庭裁判所でおこなう手続きであり、相続人自身の相続を放棄するという意思のみでは効力が生じないということです。

相続放棄の手続きは、家庭裁判所へ相続放棄申述書(そうぞくほうき しんじゅつしょ)と戸籍等の必要書類を提出することによりおこないます。そして、家庭裁判所に相続放棄の申述が受理されたら、その相続については最初から相続人でなかったものとみなされることになります。

相続放棄と同じような言葉として、遺産放棄という表現を使用されることがあります。しかし、遺産放棄という言葉は法律で定められているものではなく、ある相続人が「遺産を相続しない」というような意味合いで使われていることが多いと思われます。

自分は遺産を相続する権利を放棄するというのを短縮して、「遺産放棄」と表現しているといった感じでしょうか。

たんに遺産を相続しないという意味での遺産放棄であれば、家庭裁判所での手続きは必要ありません。通常は、他の相続人(または、司法書士や弁護士)が作成した遺産分割協議書に署名押印をして、印鑑証明書を提出するだけで済みます。

・遺産放棄では借金があるとき問題になる

ある人が亡くなったときに、その人の遺産を相続しないという意味では、家庭裁判所で相続放棄の手続きをするのでも、いわゆる「遺産放棄」をするだけでも変わりは無いように思えるかもしれません。

しかし、亡くなった方(被相続人)にプラスの財産だけでなく、負債(借金、債務)があった場合、相続放棄をしているかどうかによって大きな違いが出てくるのです。

最初の説明でも書いたとおり、相続放棄をした人は「その相続については最初から相続人でなかったものとみなされる」ことになります。相続人でないのですから、被相続人に借金があったとしても、その支払い義務を引き継いでしまうことはありません。

ところが、家庭裁判所で相続放棄の手続きをするのでは無く、ただ単に遺産放棄をしただけである場合には、自分がその遺産を相続しないという効力が発生しているのみです。したがって、遺産放棄をしていても、被相続人に借金があれば他の相続人と共にその支払い義務を引き継ぐことになります。

つまり、遺産放棄をしてしまったために、被相続人の遺産は相続できなかったのに、借金のみを相続するという結果になってしまうわけです。このような結果にならないためには、家庭裁判所で相続放棄の手続きをしておくべきだったということです。

誰かが亡くなったことにより自分が相続人になった場合に、自分は遺産を相続しなくていいからといって遺産放棄すればいいと安易に考えるのは危険です。プラスの財産を放棄するだけでなく、マイナスの財産(負債)を引き継いでしまうのを避けるためには相続放棄をしておく必要があるのです。

相続放棄は、相続が開始したことにより自分が相続人となったことを知った時から3ヶ月以内にしなければならないのが原則です。相続放棄をしようとするときは、早めに専門家(司法書士、または弁護士)に依頼するのがよいでしょう(相続放棄の手続きについてはこちらをご覧ください)