間違いなく時効期間が経過しており、消滅時効が完成していると考えられるのであれば、消滅時効援用をすることのデメリットは何も無いといっていいでしょう。個人の信用情報についても、消滅時効援用により改善することはあっても、新たに悪い情報が記録されてしまうようなことはありません。

それでも、とくに知らぬ間に裁判を起こされている可能性があるというような場合では、不用意に消滅時効援用をしてしまうことで問題が生じる恐れもあるので、慎重に検討する必要があります。

1.債権者から通知書などが届いている場合

2.債権者から何の通知も届いていない場合

3.裁判所から訴状や支払督促が届いている場合

1.債権者から通知書などが届いている場合

現在、債権者から通知書が届いたり、電話が入ったりしているような場合、消滅時効援用をすることによるデメリットはあるのでしょうか。

もしも、消滅時効援用をすることによるデメリットがあるとすれば、消滅時効が完成していなかった場合でしょう。

消滅時効が完成していないのに、債権者に対して消滅時効を援用する旨の通知を送ってしまったとします。この場合、債権者から、消滅時効が完成していないとの連絡が入ります。

代理人(認定司法書士、弁護士)により消滅時効援用をしている場合には、代理人に宛てて連絡が来ることとなります。そうなれば代理人の立場としては支払いをするのを前提に和解交渉をすることになるでしょう。

つまり、債権者から連絡が入っていたとしても、何の反応もせずにいれば時効が完成したかもしれないのに、消滅時効援用をしたために支払わなければならなくなってしまう可能性があるということです。

ただし、消滅時効援用の内容証明郵便を送ってみたが消滅時効が完成していなかったというケースでは、ほとんどの場合で裁判を起こされています。このようなときは、あと少しで時効が完成していたはずなどというケースはまれであり、時効が完成するのは何年も先だったというような場合が多いです。

このようなときに、どうしても支払いをするのが困難である(または、支払いをしたくない)というときには、消滅時効援用の依頼をした代理人との委任契約を解除することも考えられます。

その場合には、再び債権者からの連絡が直接来ることとなりますが、それは消滅時効援用の手続きをする前の状態に戻っただけであるともいえるでしょう。

その後に、時効期間が経過したときに再び消滅時効の援用をすることも考えられます。消滅時効の援用を1度したことが債務の承認にあたるため、その時点で時効が中断していると考える余地もありますし、債権者からそのような主張がなされる可能性もあるでしょう。

しかし、消滅時効援用の内容証明郵便において、債務を承認したとみなされるような書き方をしていなければ、消滅時効の援用は債務の承認にあたらないとの主張が認められる可能性は十分にあるはずです。

消滅時効の援用が成功した場合には、時効援用の手続きをしたことによるデメリットは何もありません。個人の信用情報も消滅時効援用をしたことで悪化する心配はありません。

2.債権者から何の通知も届いていない場合

債権者から何の通知も届いていない場合で、消滅時効の援用をする必要があるのは、信用情報に延滞や異動の情報が記録されている場合のみです。

そのような場合に、信用情報を回復させるために消滅時効の援用をおこなうのであり、現時点で債権者からの督促がおこなわれておらず、信用情報に記録が残っていないのであれば、消滅時効の援用をする必要はありません

よって、現時点で債権者からの連絡が入っていない場合には、JICC(日本信用情報機構)、CIC、KSC(全国銀行個人信用情報センター)から信用情報の開示を受けてみます。そこで、ブラックの情報が記載されていなければ、消滅時効援用をする必要はありません。

もしも、異動や延滞の情報が記録されていた場合には、信用情報を確認すれば延滞になった時期が分かりますから、時効が完成していると判断できる場合には消滅時効の援用をします。

ただし、その場合でも知らぬうちに裁判を起こされていたような場合には、消滅時効が完成していない可能性もあります。そのような場合でのデメリットについては、上記の「債権者から通知書などが届いている場合」と同様です。

3.裁判所から訴状や支払督促が届いている場合

まず、裁判所から訴状や支払督促が送られてきた場合には、必ず受け取らなければなりません。訴状や支払督促は特別送達という特別な郵便で送られてきます。もしも、不在だった場合などには不在票が入っていますから、再配達してもらうなどして受け取るようにします。

特別送達の受け取りを拒否したり、不在票が入っていても受け取らずにいたとしても、最終的には訴状を受け取ったものとみなされてしまう制度もあります。そうなれば、訴状を受け取っていなくても判決が出てしまいますから、受け取りを拒否するなどしても裁判手続きから逃れることはできないのです。

裁判所から訴状や支払督促が送られてきた場合には、消滅時効が完成している可能性があるならば、必ず消滅時効の援用をします。裁判外で内容証明によることもできるでしょうし、答弁書において消滅時効の援用をすることも可能です。

訴状や支払督促が送られてきた後であっても、適切な方法で消滅時効の援用をすれば、債権者が消滅時効の援用を認める場合には訴えを取り下げてくるのが通常でしょう。相手方が訴えを取り下げてきた場合には、債務が完全に消滅するわけですから、その後に再度の請求を受けることはありません。

ところが、訴状や支払督促が送られてきたものの、何らの対応をしなかったとすればどうなるでしょう。この場合、すでに消滅時効が完成している場合であっても、裁判所としては債権者(原告)の主張を認める判決を出すしかありません。

そうなれば、そのときから10年間は消滅時効が完成しなくなってしまいますから、長年にわたって再び督促がおこなわれることとなるでしょう。とくに債権者としては裁判手続きをすることにより、債務者の存在が確認できたわけですから、督促を強化してくる恐れもあります。

したがって、裁判所から訴状や支払督促が送られてきた場合には、消滅時効が完成している可能性があるならば、絶対に消滅時効の援用をするべきだといえます。時効援用することでのメリットはあっても、デメリットが生じることはまったく無いといっていいでしょう。仮にデメリットだと感じることがあったとしても、それは消滅時効の援用をしなかったとしても生じているはずのデメリットです。