知り合いの人で職人さんから相談を受けました。その職人さんの家は代々大きな農家をしているそうです。兄弟もたくさんいますが、親と一緒に農業をやっていて、農業の後を継ぐお兄さんのために相続放棄を生前にしたいというのです。
その職人さんは自分はもう若い時から東京に来てしまって、親の面倒や代々続く農地を守る兄が遺産相続の問題で頭を悩めることが無いように、今のうちから親の相続を放棄しておきたいとのことです。私はこの話を聞いてともていい事だと思いました。今の時代、どんなに少しの相続でもほとんどもめると言う話をよく聞きます。
生前、親の面倒を見ない兄弟が親が死んだとたん、相続を主張して、住んでいた家を売らないといけなかったと言う話を良く聞く中で、このような自分の立場をわきまえた人がいると言うのはなんとも珍しい話だなと思いました。もちろん、遺産を全部独り占めもよくないです。
でも親の介護をした人などした人にもっと大きな権利を与えてほしいと言うのは私の母が祖父母が住んでいた家を相続する時にもめたことを見たからです。私の母は10年、ずっと一人で祖母の面倒を見ました、自分の兄たちは一度も手を出す必要はなく、無事に仕事を務めあげることができました。
10年間の介護の苦労は主張しないと家庭裁判では認めてもらえません。おじさんたちは母が一人で介護を背負ったことをまったく考えてくれませんでした。もらえるものはもらうーと言う考えだけがあったようです。がんばった母のために相続放棄をしてほしかったです。女性が一人で10年間介護をした分の経済的ロスは大きいです。
もちろん私たちの場合は母が介護の傍らそれでも自営業をしていたので、相続の権利をお金で自分の兄たちに払うことで相続は終わらせることが出来ましたが、家の相続の権利を払えない人は家を売って、売ったお金を山分けしかないわけです。住んでいる家を売っていくらのお金になるかはわかりませんが、お金で解決できない家を売らないといけなかったことでつらい思いをしている人も必ずいると思います。
多くの人が親の世話をしてきても、いざ相続になったら他の相続人から自分の相続権を主張されてしまう。相続はもらう事だけを考えるのではなくて、もし親の面倒を見てきた人がいたなら、その人への敬意を表する意味で相続放棄も考えてほしいと思います。将来、今の相続の制度がまたもっともっと苦労した人への苦労を、苦労した人が権利を主張しなくても、認めてくれるような制度に変わってほしいです。
ところで、生前に相続放棄が出来るかということですが、現在の日本の法律では生前の相続放棄は認められていません。その方が亡くなるまでは、その人に属する権利義務が確定することは無いので、その前に相続放棄してしまうと不利益が生じる怖れがあるからでしょう。
生前に相続放棄をするのと同じような効果を生じさせるためには、親に遺言書を書いて貰うとともに、自分自身は家庭裁判所で遺留分の放棄をするという方法があります。手続きをしよう考えている方は、法律専門家である司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。