相続放棄とは、亡くなられた方(被相続人)についての、遺産(債権、債務)の一切を引き継がないものとするために、家庭裁判所でおこなう手続です。

「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす(民法939条)」とされています。そもそも「相続人でなかった」とみなされるのですから、相続する権利は全くないのであり、被相続人の財産を一切引き継ぐことが出来ないのは当然です。

そうであれば、被相続人がかけていた生命保険はどうなるのでしょうか。結論から言えば、生命保険の死亡保険金については相続放棄をしても受け取れる場合が多いです。ただし、これは生命保険の契約または約款で、保険金の受取人がどのように定められていたかによります。

生命保険契約で、特定の受取人が指定されている場合

まず、特定の受取人が指定されている場合は、相続放棄してもその生命保険金を受け取ることができます。たとえば、受取人として妻の氏名が書かれているような場合です。

また、特定の受取人が定められていなくとも、受取人が「相続人」となっている場合も同様です。

これらの場合は、生命保険金を受け取る権利を相続するわけではなく、保険契約により定められた受取人自身の権利として生命保険金を受け取るからです。

このことは、もともと法定相続人ではない人が保険金受取人となっているケースを考えれば分かりやすいでしょう。たとえば、会社を受取人として、その会社の従業員に保険をかけるような場合です。

このときは、会社が保険金を受け取るのは、契約でそう定められているからであって、相続人だからではありません。

そう考えると、保険契約による保険金の受取人になっていたのが、たまたま「自分が相続人であって、その相続を放棄した」という理由により、保険金を受け取れなくなるのはおかしいとご理解いただけるでしょう。

受取人が被相続人となっている場合

これに対して、受取人が被相続人となっている場合には、被相続人の「生命保険金を受け取る権利」を相続するわけですから、相続放棄をすれば保険金を受け取ることもできないのです。