個人債務者再生手続(小規模個人再生、給与所得者等再生)によれば、任意整理や特定調停などの債務整理手続に比べて、債務が大幅に減額される可能性があります。

それでは、「債務整理をしなくとも支払不能とまではいえないが、返済を楽にするために個人再生手続を利用する」ことは認められるのでしょうか。

裁判所へ個人再生手続の申立をすれば、個人信用情報にはその旨の記載がされますから、その後の借入れはできなくなります。気軽に利用する手続でないのは当然だとしても、返済が大幅に楽になるならば利用したいと考える人もいるかも知れません。

再生手続開始の申立ての要件

個人債務者再生手続(小規模個人再生、給与所得者等再生)を利用するための要件は、「債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」です。

民事再生法21条で、「債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるときは、債務者は、裁判所に対し、再生手続開始の申立てをすることができる」と定められています。

それでは、破産手続開始の原因とは何であるかといえば、破産法15条1項に「債務者が支払不能にあるとき」とあります。

さらに、支払不能であるかどうかを客観的に判断するのは難しいこともあるでしょうが、破産法15条2項では「債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する」とされています。

そうであれば、支払不能であることが明らかではないにしても、専門家(弁護士、認定司法書士)に依頼して支払いを停止したときには、支払不能にあるものと推定されると考えられます。

支払不能であることが認められない場合

上記のとおり、債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定するとの規定があるとしても、債務者の収支からして支払不能ではないことが明らかな場合には、再生手続開始の申立ての要件を充たしていないと判断されることもあるかもしれません。

また、申立人本人の収入のみによってはたしかに支払いが困難であるとしても、配偶者の収入を含めた家計収支から判断すると支払不能ではないと判断されることもあり得ます。たとえ配偶者であっても、自分以外の債務を支払う義務は本来ありませんが、裁判所の運用として同一家計の人の収入を含めて判断されることもあります。

債務整理をしなくとも楽に支払えるのに再生手続の申立をしようとする人はまずいないでしょう。しかし、上記のように債務者本人のみの収入によれば支払いは困難であっても、配偶者の収入を含めて判断すれば支払不能ではないという場合もあります。

既に夫婦関係が破綻していて別居しているような場合を除いて、裁判所は夫婦の家計は同一だと判断するはずです。再生手続開始の申立てをした際には、配偶者の給与明細の提出も求められ、支払不能であるかの判断がなされるのが通常だと考えられます。

支払不能な状況に陥る恐れがないのに再生手続開始の申立をしようとすることはないとしても、再生手続開始の申立てをするには、「債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」との要件があることは頭に置いておくべきでしょう。